6人が本棚に入れています
本棚に追加
マーカスの言葉を聞き、旅人は苦笑いを一つ浮かべてため息をついた。
ちりりん、とどこかで鈴の音がなった。
「向こうの街から歩いてきたんですが、もう足がパンパンになっちゃって」
「そうか、そいつは災難だな」
マーカスはそう言いながら、改めて旅人の姿を良く見た。鈴はどこにもついていない様だった。
空耳だろうか。
何となく耳を小指でほじってみながら彼は小さく首を傾げた。
「ところで、いい馬車ですね」
「あん?」
突然そんなことを言い出した旅人に、マーカスは訝しげな目を向けた。念のため、手元にいつも置いている短剣の柄に手をかける。
「物は相談なんですが、荷台の隅っこに乗せて頂く訳には行かないですかねぇ」
「生憎、荷台は一杯でね」
マーカスはそう言って旅人の要求を突っぱねた。旅人はため息をつき、懐からジャラジャラと音のする袋を取り出した。その途端に、マーカスの目つきが変わる。彼はがめつい男であった。
「……銀貨で十枚」
「それじゃ、乗合馬車より高い。いい所四枚でしょう」
高いのは分かっていて金額を提示したのだ。
完全に足元を見る行為だった。
「それなら、あと三時間、頑張って歩くんだな。日が暮れたら、この辺は狼が出るらしいぞ」
最初のコメントを投稿しよう!