呪歌

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 荷馬車の幌の中は、マーカスの言うとおり荷物で満載だった。木箱や布袋、鉄の箱もある。 「やれやれ、これで九枚か……でもまあ、悪くない」  旅人は見つけ出したわずかなスペースに体を縮こまらせて腰を下ろした。  馬車が再びゆっくりと動き出した。 「凄い荷物ですねぇ」  荷物を見回しながら、旅人はマーカスに話しかけた。 「大事な商売道具だ。触るんじゃないぞ」 「わかっていますよ」  旅人はそう言って、木箱の上に自分の荷物を置いた。 「それにしてもいい馬車だなぁ。いいなぁ」  旅人はあちこち見回しながら、そう一人呟いていた。 「あんた、何で村に行くんだ?」 「まあ、当ての無い旅ですよ」  布袋をぽんぽんと叩きながら、旅人はそう答えた。マーカスは御者台に座ってずっと前を向いているので、旅人のその様子に気づいている様子はない。 「あの村にゃ、何にも無いぞ」 「そうなんですか? あの村のこと知ってるんですね?」 「まあな。通り道だからな」  そう言いながら、マーカスは口から煙を吐き出す。 「なるほど……」  そう言った後、旅人はしばらく黙った。     
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