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「誰かに盗まれるのが怖い」
「違いますよ」
だからいなす程度しかしない。あまり強く言うと、彼は泣き出してしまうから。
「僕の所有者でありたい」
「先生。もう少し話を聞いてください」
「始まりの終わりが怖いのだ!」
そうやって散々甘やかしたのが悪かったのか、彼の腕が僕を抱いた。
「僕を愛しているね? 明智くん。僕の泣き顔が好き。僕の笑顔が好き。君は僕に文学を見出しているだろう。僕の全てに美しさを感じている?」
「自惚れがすぎませんか」
「自惚れないと生きられないのが理だ。そして君は僕の目を見る」
指示の通りに下を向いた。予定調和に彼は僕を見ていたし、僕の頭より少し低い位置に、そのまあるい目はあった。深い色。海のような。海風と砂埃に、塩辛いなと思った。
「明智くん、僕の名前を呼んで」
「……先生。蕣先生」
「そうだよ。僕は蕣。もうじき咲くんだ。東からね。そうしたら、愛していると言って」
「わかりました」
観念した僕に満足したのか、彼はふわふわと離れて行った。そしてまた波打ち際で遊んでいる。僕らはもうじき恋人になる。そう理解した上で、僕はテトラポットを見上げながら、ただじっと、朝日が昇るのを待っていた。
真実は東から。
ミッドナイトユーザー
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