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「明智くんは不安だね」 「そうですよ」 「僕が見えないからって怖がっている」 「そうかもしれませんね」 「明智くんは世界の真実を見た」 「見てないですよ」 「そうか、明智くんは僕を愛してる!」 ざざあん。一層高く泣く波を背負って、彼がこちらまで走ってきた。 「やあ」 「やあ。深夜の海は楽しいですか?」 「深夜の海は楽しい。とても。明智くんは僕を愛しているし……」 「そうですね。人としては愛してますよ。先生のことを」 「違うよ明智くん。君は僕を好きだろう」 「僕の恋愛対象は女性なんです、先生」 「そんなことない。明智くんは賢者だから、どんな人間も平等に愛せる」 「いいえ先生、僕は愚者です。身体が興奮しても、頭が冷めています」 「じゃあなぜあんなことを言ったのだ!」 そう叫んで、彼は僕の胸に倒れこんできた。髪が海風で湿っている。真夜中の彼は無敵だ。無敵に素敵。だから笑っている。 「あんなこととは」 「君は僕を抱くたびに愛しているって言う。なんども好きを言うし、目を見ろと言うよ。そして誰の前でも服を脱がないと僕に誓わせる」 「それは先生の貞操のためです。あなた、この世ではちょっとした異常なんだから」 「たくさん噛む」 「……それはくせです」 神妙になる僕を置いて、彼はくすくす微笑んでいる。酔っ払いのように楽しそうだ。 「明智くんは僕の名前を呼ばない」 「先生は先生ですから」 彼の深い瞳の色が脳裏に浮かんだ。シーグラスのように、内側から透き通った目。転がっている貝殻を、彼は裸足で踏んでいるようだった。声は依然として楽しそうであった。 「其れ即ち、僕の名前が宝物だから。僕の名前が愛しくて仕方がないため、呼ぶのが惜しいのだ」 「違います」 彼と会話が成り立たないのはまあ、いつものことだった。
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