第三部:事件を追い、春へ。

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この彼は、2年前より被害者の種蒔氏に目を付けられた。 大学教授や准教授の覚えが良いからだ。 時折に触れ、難解な計算式の説明を手伝う様に頼まれていた。 然も、その報酬が現金で。 家が裕福では無い光島だが、独自にプログラムを組んだ情報処理ソフトを使い、株をやって生活費を稼ぐなどし。 数学の研究に没頭し、宇宙物理や物理学の研究にも加わっていた。 処が、被害者の種蒔氏を関節にし、被疑者の女性を知る。 何て事の無い話なのだが、話し掛けられた光島にして、一目惚れだった。 だが、相手は種蒔氏の愛人兼使用人みたいなもの。 何とか目を覚まさせ様と、協力の裏返しに別れる様に種蒔氏に頼んだ。 人間と云う生き物は、様々な意味でやはり経験がモノを云う。 恋愛に関しては、種蒔氏の方が鋭敏で在る。 光島が彼女に興味を持つならば、自由に抱かせてやる・・と云う始末。 これに怒った光島で、もう協力はしないと断ったらしい。 そして、話はあの夜の被疑者と被害者の事に成る。 種蒔氏は、 “今夜に彼女と密かに会わせ、言いなりにさせてやる” と、光島へメールを寄越して来た。 メールの内容を見て頭に来た光島は、女子寮の近くまで行った。 無論、種蒔氏にキッパリと絶縁を告げる為で在る。 この後は、防犯映像の通りだ。 女子寮の言われた辺りに行けど、其処には誰も居ないので。 被害者を捜して通りを歩けば、被疑者の彼女が慌てながら寮に逃げる姿を見る。 そのまま公園に行けば、種蒔氏が瀕死だった。 事情聴取をする織田刑事より。 「知ってて見捨てたならば、遺棄罪より殺人罪か、殺人幇助になるよ。 未必の故意…」 説明の途中で、光島は吃りながら云う。 “彼女の犯行は、私の所為で発生した。 彼女が捕まった以上、1人で刑を軽くするつもりはない。 身辺の整理をして、何れ自首するつもりだった” 後頭部をポリポリと掻く織田刑事。 「凄く頭が良いのに、不器用だねぇ。 はぁ、勿体無いよ」 事件が突発的過ぎたと光島は云う。 別の道も模索しようと考えて居たらしいが、まさかこんな事になるとは思って無かったと。 其処へ、一緒に取り調べをする萌木刑事が光島に近寄り。 「愛してた・・の?」 と、少し滑稽に見える様な、間抜けとも窺える質問をしたが。 俯く光島から涙が落ちて、純粋な恋愛感情が有った、と解る。 見ていた木田一課長も、大恋愛の末に駆け落ち婚みたいな形で結婚した。 彼を見て、やるせなくなった。
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