第三部:事件を追い、春へ。

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        1 2月上旬から中旬に移る頃。 良く晴れた日の朝。 篠田班は事件に呼ばれた。 冷めざめした都内の公園で、若い男性が死んでいた。 場所は、北区田端。 年末に起こった事件が在り、昨日に降った雪でまた交通事故。 初動捜査を行う機捜の班を動かす課長より、木田一課長に逆打診で一課が最初から出張る事に。 現場に来た木葉刑事は、四人乗りの一台の車で臨場。 後部シートのドアを開けて周りを見ながら。 「小学校も近い公園で、殺人ですか」 反対側より降りるのは、朝御飯を車内で食べた里谷刑事。 「はぁ~、死んだのがイケメンじゃない事を祈るわ」 前の助手席から降りる市村刑事は、 「偲んで貰えるだけ有り難い」 と、自覚した様に笑う。 其処へ、証拠の採取に来た鴫鑑識員が。 「容姿だけで人間性が判るならば、世の美男美女に離婚など有り得ぬよな」 その後を行く進藤鑑識員が、美人の鴫鑑識員より出た突っ込みだからニヤニヤしながら行く。 亡くなったのは、近くのアパートに住むらしい『種蒔 和巳』《たねまき かずみ》、大学の講師をする26才。 長身で、今時の若者らしいイケメンが被害者だった。 さて、後ろから固いモノで殴られた被害者は、パンを包むビニールの包を踏んで階段で転倒して頭を打ち。 首の骨に致命的な損傷を負ったらしい。 若き解剖医の『坂野 神住』《さかの かすみ》は、死亡を確認した後で直腸温を測り。 「死亡したのは、昨夜の日付が変わる前後一時間くらいですね」 御遺体を眺める木葉刑事は、被害者の口を指差し。 「これは、今時の化粧をする男性用の口紅ですか? それとも、女性用の?」 坂野医師は口紅の一部を手袋に付着させ、匂いを薫ると。 「市販されてますが、少し高い口紅かな。 蜂蜜の成分を使っているみたいです。 女性用のもので、今はCMもやってる筈かと」 これには、里谷刑事も。 「ヌルプルの唇の女性、嫌いですか? って奴じゃない?」 其処へ、鴫鑑識員も来て。 「智親どのも、それを持っているぞえ。 妾は、一緒に買い物に付き合い申した」 CMも解らない木葉刑事は、 「そんなに高いんですか」 と、場の女性に尋ねる。 「ん、自然由来の成分ゆえに、毎月の生産量が少ないとか聞いたのぉ。 店頭では、そうな…。 一本、2万円ほどかと」 「2万ね」 考える木葉刑事へ、寒そうにコートの襟を狭める織田刑事が。
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