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「あのぉ、里谷刑事」
「何?」
「木葉刑事から言われた事って、もしかすると…」
彼女に問われても、里谷刑事はまだ落ち着き払っている。
「事実は、もう一人の被疑者に聴けば解るんじゃない? もう此方に身柄が戻ってるから、早く事情聴取をするわよ」
「あ、はい…」
次の仕事に移る萌木刑事なのだが。 その内心で。
(もし、想像通りだったら、あの木葉刑事はインチキなんかしてない。 多分、人の心を何処までも深く………)
推測が沸き上がると、心がドキドキする。 恋愛感情では無い。 丸で、秘密に触れる様な、未知の何かを知る感覚だ。
朝に、検察の了承を得て拘置所より戻された野木久美。 親と面会し事情を話した彼女は、食事を終えていて。 ジーンズにダウンジャンパーを着ていた。 本日は寒い。 無機質な聴取室は、暖房を入れても寒かった。
化粧っ気の無くなった彼女は、素朴だが内面の女性らしさや優しさ等が窺える。
対面に座る里谷刑事。
「寒い? もう少し、暖房を強める?」
「大丈夫です」
俯いて遠慮した彼女。
さて、事件の経過を再確認し、種蒔氏との関係も再確認した後だ。
里谷刑事より。
「あのね、貴女の他にもう一人、同じ罪に成りそうな人を確保したの」
予想もしない事だ、野木は顔を向けて来て。
「わた・しっ、誰とも…」
頷き返す里谷刑事だ。
「解ってる。 でも、貴女の他にもう一人、被害者の死に関わった人が居るの。 光島さん、大学院生の男性を知ってるでしょ?」
「光島さんがっ、どうして出て来るんですか?」
「貴女が種蒔さんを殴って、階段で滑って致命傷を負ったでしょ?」
「はい…」
「その後に、不審な様子で立ち去る貴女を見掛けて現場に来たの」
「光島・さ、さんが?」
「えぇ。 貴女が何をしたか、彼は瀕死の種蒔さんを見て事情を理解した。 その上で、救急車も呼ばずに見捨てた。 刑事訴訟法で、怪我人や保護の必要な人を見捨てたりする場合、本人の生命や理由が限られた場合以外は、それだけで罪に成る場合が在るの。 そして、それが故意だった場合は、殺人や傷害致死と同じぐらいに重い罪に成る場合が在る。 今回は、正にそれ。 彼は、殺人に問われるかもね」
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