第三部:事件を追い、春へ。

21/37
前へ
/37ページ
次へ
「あのぉ、里谷刑事」 「何?」 「木葉刑事から言われた事って、もしかすると…」 彼女に問われても、里谷刑事はまだ落ち着き払っている。 「事実は、もう一人の被疑者に聴けば解るんじゃない? もう此方に身柄が戻ってるから、早く事情聴取をするわよ」 「あ、はい…」 次の仕事に移る萌木刑事なのだが。 その内心で。 (もし、想像通りだったら、あの木葉刑事はインチキなんかしてない。 多分、人の心を何処までも深く………) 推測が沸き上がると、心がドキドキする。 恋愛感情では無い。 丸で、秘密に触れる様な、未知の何かを知る感覚だ。 朝に、検察の了承を得て拘置所より戻された野木久美。 親と面会し事情を話した彼女は、食事を終えていて。 ジーンズにダウンジャンパーを着ていた。 本日は寒い。 無機質な聴取室は、暖房を入れても寒かった。 化粧っ気の無くなった彼女は、素朴だが内面の女性らしさや優しさ等が窺える。 対面に座る里谷刑事。 「寒い? もう少し、暖房を強める?」 「大丈夫です」 俯いて遠慮した彼女。 さて、事件の経過を再確認し、種蒔氏との関係も再確認した後だ。 里谷刑事より。 「あのね、貴女の他にもう一人、同じ罪に成りそうな人を確保したの」 予想もしない事だ、野木は顔を向けて来て。 「わた・しっ、誰とも…」 頷き返す里谷刑事だ。 「解ってる。 でも、貴女の他にもう一人、被害者の死に関わった人が居るの。 光島さん、大学院生の男性を知ってるでしょ?」 「光島さんがっ、どうして出て来るんですか?」 「貴女が種蒔さんを殴って、階段で滑って致命傷を負ったでしょ?」 「はい…」 「その後に、不審な様子で立ち去る貴女を見掛けて現場に来たの」 「光島・さ、さんが?」 「えぇ。 貴女が何をしたか、彼は瀕死の種蒔さんを見て事情を理解した。 その上で、救急車も呼ばずに見捨てた。 刑事訴訟法で、怪我人や保護の必要な人を見捨てたりする場合、本人の生命や理由が限られた場合以外は、それだけで罪に成る場合が在るの。 そして、それが故意だった場合は、殺人や傷害致死と同じぐらいに重い罪に成る場合が在る。 今回は、正にそれ。 彼は、殺人に問われるかもね」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加