第三部:事件を追い、春へ。

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「あ、あぁ・・ど、どうしよう。 光島さんが、罪に問われる。 私の所為で、私の所為でっ!」 「そうね。 もう、それは止められないわね」 里谷刑事が言うと、彼女が前に身を乗り出し。 「ちがっ、違うっ! 彼は何もしてないっ、あんな才能の在る人を罰して牢屋に入れてもっ、世の中の為に成らないですっ!!! どうすれば良いんですかっ!? 私がっ、私が罪に問われるべきですっ!」 食らい付く様な彼女だが、里谷刑事は彼女の手に手を置いて。 「もう、遅いの。 光島さんが、罪を認めたの。 それから、殺意とも取れる想いが在った事もね、認めた」 愕然とした彼女から、気持ちが抜けてしまうのが誰の眼にも解る。 崩れる彼女を机から身を乗り出して助けた里谷刑事で。 慌てる萌木刑事が椅子を直し、力の抜けた彼女を椅子に下ろす。 「さつ・い、殺意…」 呟く彼女。 里谷刑事が彼女の顔を見て。 「貴女が被害者を殴って、その後に救急車を呼ぶしか、彼を助ける手段は無かったの」 里谷刑事と野木久美の目が噛み合った。 其処に、問い掛けと同じ様な、無言の疎通とも云える間が在り。 「被害者の瀕死の姿を見た光島さんは、貴女が自由に成るには彼が生きて無い方が良い。 犯行は誰も見てないし、逃げる貴女を見たのは自分だけ。 自分が黙って彼を助けなければいいって、そう思ったって供述した。 貴女は、裏切られた怒りや悲しさから衝動的だった。 でも、彼は・・冷静に判断した」 野木久美の口がワナワナと震え、眼が俄に潤み始めた。 「ゔ、うぅ…」 再度、泣き始めた彼女を見て、隣の視聴室に居た木田一課長と小山内理事官は、被害者が遣ろうとした事が裏目に出たと解った。 「小山内さん、今回の事件も嫌ですよ」 頷く小山内理事官。 「全くですな。 事件を起こさずに被疑者の2人が逢えたならば、また事態は変わりましたかね」 「………」 黙った木田一課長。 “たら・れば”は、存在しない。 「時間ん゙…、時間が巻き戻るならぁ…」 顔を両手で隠した野木久美が、非現実的な事を言う。 時間が巻き戻ったとしても、起こり得る別の可能性など無いと思う。
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