3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あぁ・・ど、どうしよう。 光島さんが、罪に問われる。 私の所為で、私の所為でっ!」
「そうね。 もう、それは止められないわね」
里谷刑事が言うと、彼女が前に身を乗り出し。
「ちがっ、違うっ! 彼は何もしてないっ、あんな才能の在る人を罰して牢屋に入れてもっ、世の中の為に成らないですっ!!! どうすれば良いんですかっ!? 私がっ、私が罪に問われるべきですっ!」
食らい付く様な彼女だが、里谷刑事は彼女の手に手を置いて。
「もう、遅いの。 光島さんが、罪を認めたの。 それから、殺意とも取れる想いが在った事もね、認めた」
愕然とした彼女から、気持ちが抜けてしまうのが誰の眼にも解る。 崩れる彼女を机から身を乗り出して助けた里谷刑事で。 慌てる萌木刑事が椅子を直し、力の抜けた彼女を椅子に下ろす。
「さつ・い、殺意…」
呟く彼女。
里谷刑事が彼女の顔を見て。
「貴女が被害者を殴って、その後に救急車を呼ぶしか、彼を助ける手段は無かったの」
里谷刑事と野木久美の目が噛み合った。 其処に、問い掛けと同じ様な、無言の疎通とも云える間が在り。
「被害者の瀕死の姿を見た光島さんは、貴女が自由に成るには彼が生きて無い方が良い。 犯行は誰も見てないし、逃げる貴女を見たのは自分だけ。 自分が黙って彼を助けなければいいって、そう思ったって供述した。 貴女は、裏切られた怒りや悲しさから衝動的だった。 でも、彼は・・冷静に判断した」
野木久美の口がワナワナと震え、眼が俄に潤み始めた。
「ゔ、うぅ…」
再度、泣き始めた彼女を見て、隣の視聴室に居た木田一課長と小山内理事官は、被害者が遣ろうとした事が裏目に出たと解った。
「小山内さん、今回の事件も嫌ですよ」
頷く小山内理事官。
「全くですな。 事件を起こさずに被疑者の2人が逢えたならば、また事態は変わりましたかね」
「………」
黙った木田一課長。 “たら・れば”は、存在しない。
「時間ん゙…、時間が巻き戻るならぁ…」
顔を両手で隠した野木久美が、非現実的な事を言う。 時間が巻き戻ったとしても、起こり得る別の可能性など無いと思う。
最初のコメントを投稿しよう!