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だが、里谷刑事には、彼女の気持ちが良く解る。 そして、それは萌木刑事も一緒だ。
「あの、野木さん」
彼女の脇に屈む萌木刑事。 木葉刑事が里谷刑事に言った事を確かめたくなり。
「貴女へ、光島さんが抱いた好意。 それを察した被害者が、貴女を光島さんに宛がおうとした。 これは多分、事実だと思います」
泣く彼女は、ガクガクと頷く。
「これは、貴女の心証として、だと云う事に成ると思うんですが。 被害者が、研究の時に貴女に光島さんへ気を掛ける様に言ったのは、探りを掛ける意味が在った・・と思いますか?」
こう尋ねると、彼女はまた頷く。
「あ・在ったと、おも・います。 たねま・きさんは、あの・・時はヘンでした」
こう言って、手を降ろすと。
「私に、みっ、光島さんを名指しして、気を掛けて欲しいって…。 今まで、名指しでそんな事を言われた事は、い、一度も・・無いです」
被害者が亡くなって居る以上、これは明らかに成らないかも知れない。 だが、やはりこの事件は、起こるべくして起こったのかも知れない訳だ。
全てを話した野木久美は、光島の刑はそんなに重く無いと言う。 被害者が助からない瀕死ならば、彼が救急車を呼ぼうが、呼ぶまいが、被害者は死んだと。 だが、求める罪を選ぶのは、裁判に臨む検事だ。 突発的な感情により、被害者を殴った野木久美に殺人罪は難しい。 現場の足跡からして、彼女は倒れた被害者に触っても居ないし。 触れる距離に近付いても居ない。
だが、光島は違う。 被害者を観察した上で、静かに立ち去って居る。 光島が殺意とも受け取れる感情を言い表した以上、殺人罪にも問える可能性は十分に在った。
そして、小山内理事官に会う女性の担当検事は、
“男性の被告には、十分な殺意が窺えますね。 これは、遺棄致死罪よりも、殺人罪が妥当。 加害者よりも、罪は重いと判断が出来ます”
と、殺人罪での起訴を示した。
この後、刑事は被疑者の2人に話を詳しく聴く必要も無く。 捜査本部としての証拠固めは、6日ほどで終わる。
後に検事より話を聴かれる2人の立場は、真逆で在った。 被害者を死に至らしめたのは、殴った自分だと激しく主張した野木久美。
だが、淡々と冷静に事件を振り返り。 瀕死の被害者を確認したのに、放置した理由を語る光島の方が説得力を持った。
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