第三部:事件を追い、春へ。

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被疑者の2人は捜査に対して非常に素直で。 やはり、野木は傷害致死が妥当と検事は判断。 一方の光島は、殺人罪で起訴すると云う。 木葉刑事や他の刑事は、遺棄罪や遺棄致死罪が妥当に見えたが。 彼は、自分の所為で事件が起きた、との認識を崩さず。 また、首の骨を折った種蒔氏を見付けた時に。 “このまま放置すれば、彼はどのみち死に。 野木なる女性は自由に成れる” こう思って放置した事を繰り返し供述した。 殺意が有った、とは必ずしも彼は言って無いが。 自分の望む形を成す為に瀕死の彼を放置した事は、殺意にも取れると検事が判断したのだ。 必死に、彼の罪は重く無いと訴えた野木久美だったが。 事実を知って、彼女は泣いて逢えない光島に繰り返し繰り返し謝ったと云う。 そして、周りへの事情聴取が進むと、解って来た事が在る。 やはり種蒔氏は、事件直前に光島とのやり取りの以前から、光島の野木に対する好意に気付いていた様だ。 種蒔氏と交際する女性の学生が、肉体関係でも種蒔氏に便利遣いされる彼女へ嫉妬を抱いた。 そして、野木久美に対してだけは、光島が様子を窺う仕種をしていて。 その様子を報告し、彼女へ種蒔氏が持つ信頼度を下げようとしたのだ。 野木久美の証言、光島の証言と照らし合わせると、種蒔氏はカマを掛けたのだろう。 2人を観察した種蒔氏は、光島の好意を見抜いたのだ。 だが、全てを知っても、光島の意志は変わらなかった。 自分が言った事で、事件は起こった・・と。 一週間ほどで証拠も固まり、捜査本部は解散となる。 盲目的な恋から目が覚めた女性と、自分の好意から発生した罪の意識にうちひしがれた男性。 事件さえ無ければ、違う形で知り合えば、意外に上手く行った2人だったのかも知れない。 里谷刑事だけは、こんな2人を羨ましがったが…。 直接に事件を起こした者より、放置した方が重い罪を示された事件だった。
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