第三部:事件を追い、春へ。

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「貴方、あの事件の犯人が犯罪被害者って、いつ頃から疑っていたの?」 すると、困ったかの様に首を傾げた木葉刑事。 「ハッキリ、こうとは言えませんよ」 「でも、此方が殺人の事より薬物に関わる人物に振り回されていた年末の時から、貴方は薬物取締課の彼等に犯罪被害者の事を示唆してたみたいね」 「はぁ、まぁ…」 口を濁す木葉刑事は、軽く温かいお茶割りの酒で口を空けると。 「ですが、手掛かりは現場に在った気がします」 食べる手を止めて聴いていた瓶内鑑識員が。 「と、言うと?」 「先ず、被害者が絞殺されて居た割りに、金銭は手付かず。 多額の金が動いていたことを知るものならば、それを探さない訳はない。 また、大量の麻薬も見付かりましたが、取り返しに拳銃まで使われた割りに、家捜しの形跡も無い。 純粋に被害者が狙いの犯行ならば、怨まれる原因の最たるは・・ね」 説明を受けた瓶内鑑識員は、なるほど・・と納得して酎ハイを呑む。 が、説明に筋は通ると理解した美田園管理官だが…。 (でも、どうもその認識に至る順序が、あべこべの様な気がして成らないわ。 彼は、殺害が起こった現場を視て、既にその流れを頭に画いていたみたい…) 黙る彼女だが、其所へ酒のお代わりを作る瓶内鑑識員より。 「でも、庭の見方なんて、何で知ってるの? 石に裏表とか、只の粗大ゴミに違和感って…」 「自分の実家は、昔から続く古い神社でして。 庭掃除やら雪降ろしもやってました。 庭木の剪定も、時にはやらされてましたし…」 「中々、ヘビーな感じだわね」 「でも、この真冬に、落葉樹が青々と葉を付けてるのはかなり可笑しいですし。 棄てられた洗濯機なんか無さそうな立派な家が周りに一杯の中で、建てられて数年の屋敷の裏に、家庭用電化製品の粗大ごみがゾロゾロ並ぶなんて中々に無いッスよ。 雪が降った後なのに、あの裏の洗濯機にだけは、開けられたかの様に雪が少なかった」 「なるほど。 片岡さんの云う通り、違和感や着眼点ね」 瓶内鑑識員が納得するのも仕方がない。 彼女の部下となる鑑識員が、確かに粗大ゴミの中は見たのだ。 だが、寒さや忙しさから安直に見るだけして、存在の意味の観察を怠った。 また、鉢植えも調べられていた。 軽く動かして見たりしたが、注射器や錠剤は蔓延る根と土にくるまる様に隠されていた。 しっかり取り出せば解った筈だが、見逃された。
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