第三部:事件を追い、春へ。

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       ★ 次の日。 よく晴れた冬空が広がる。 本来ならば不思議な事だが。 まだ、拘置所の完全なる再開には至っていない。 漸く、半分と云う処か。 事件の被疑者の身柄は、送検後も特例処置として、各警察署や警視庁の留置場に据え置かれる事も多い。 出勤した木葉刑事は、その足で留置場に。 女性側の留置場に行くので、不審に思う者も居た。 が、曽根崎なる女性職員に会うと。 「木葉刑事、彼女が話をしたいって。 留置場内の面会室に居て」 特殊ガラス越しに、曽根崎職員の計らいで朝比奈美嘉と会う。 「少し、元気に成られたみたいですね」 肥田が捕まるまでの尖った彼女は既に居ない。 観念した様に落ち着いた表情で頷く朝比奈美嘉だ。 「貴方がくれた写真が、在るから…」 「捜査をした時の失礼に対し、大して返せませんがね」 また、頷く彼女で。 「あのさ、ママに…」 「ママ・・、クラブの?」 「ん。 私が、迷惑を掛けたから謝ってた、・・って言ってたと」 「お伝えすればイイんですか?」 「頼めますか?」 「ま、伝えるだけしか出来ませんが…」 「それで、十分よ」 完全に観念している彼女で、しつこい取り調べにも腐らずに対応しているとか。 「残念ですが、貴女も幾つかの事件に関わる以上、実刑は免れません。 でも、肥田も完璧に追い込まれてます。 波子隅と肥田に関してだけを言えば、もう大丈夫でしょうね」 「ありがと…」 頭を下げて来る彼女。 だが、肥田や波子隅に関わった以上、これからも様々な負債が彼女には付き纏うだろう。 出所したとしても、大手を振って子供になんか会えない。 これも、彼女に課せられた罰なのか。 それとも、背負わされた罰なのか。 静けさが支配する部屋で、短いやり取りで面会を終える。 (不思議、それしか無いな。 子を平気で殺す親も居るのに。 こんな風にしか、子を守れない親も居るなんて…) 彼女の様子に、木葉刑事は二人の女性を重ねた。 一人は、亡き母親。 もう一人は…。 面会を終えて廊下に出た木葉刑事に、曽根崎職員が来る。 「何か、彼女を見てると切ないわ。 立派な母親なのに…」 「悪い奴に絡まれるのも、運が悪い・・なんて事で片付けられませんよね」 「そうね。 彼女の守ろうとしてる事、明るみに成らなきゃいいけど。 あの検事、まだ余罪が有りそうだからって、裁判をしないって。 ちょっと腹立つわ」 「ま、後は成るようにしか成りませんよ。 ・・では、自分は仕事に戻ります」 「御疲れ」 別れる曽根崎職員だが。 立ち去る彼を眺め。
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