第三部:事件を追い、春へ。

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男性達をテーブルに入れて、酒の一本も入れて話を咲かせる頃。 歩く例の女性店主を見付けた木葉刑事が、彼女に歩み寄り。 「スイマセン。 ちょっと、お話をイイですかね」 「あら、私を指名して下さるの?」 「ま、大事な話を聞いてだけ頂ければ…」 離れた席に座った二人。 木葉刑事は、ゆったりした口調ながら。 「今回は、協力も、御迷惑を掛けまして…」 「刑事さんの仕事だから、仕方ないわ」 「で、話とは、朝比奈さんの事です」 「美嘉ちゃん?」 「はい。 彼女から伝言を頼まれました」 “ママには、大変な迷惑を掛けました” 「・・だそうです」 「ふぅん、そ…」 聞いた彼女は、何処か遠い目をし。 「こんな事を云うと、意外に思われるかも知れませんがね。 この職業も、これでなかなか人間性が問われますのよ」 「そうでしょうね。 人間の性欲の部分が勝負となる職業ですから…」 「えぇ。 私、これでも人間を見る眼は、少しばかり自信が有りましたの。 でも、美嘉ちゃんの事で、まだまだって気付かされましたわ」 店を見る彼女のその虚ろな眼は、確かにショックだったらしい。 「ま、事件に成った手前、何を言っても言い訳に成りそうもありませんがね。 ですが、人間性を見るって仰る意味だけ抜き出せば、貴女の眼は間違って無かったと思います」 「え?」 女性店主が見る木葉刑事は、不思議と穏やかに見える。 「それは、どうゆう…」 「彼女は、確かに悪い奴の計画した事件に関わった。 でも、身勝手な保身や欲望からではなかった。 一人の女性として、母親として身を呈した結果・・でした」 「は・“母親”? 彼女、子供が居たの?」 全く知らない事を告げられて、女性店主は周りを気にしながらも驚いた。 「えぇ。 もう会えない、そうゆう事情に成っていましたが。 それでも、波子隅や肥田と云う奴の言いなりに染まる事で、秘かに子供の存在を守ってた様です。 今も、その話を持ち出せば、情状酌量も考えられますがね。 何も知らない子供に迷惑を掛けまい、と黙ってます」 「あの美嘉ちゃんが、そんな目に…」 「学が無くても、子供を見棄てる親より親らしい。 ま、一緒に暮らしたら、また様子は違うのかも知れませんが。 立派な母親だ、と自分は感じましたよ」
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