1章 冷たい百合

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酒を飲む度に、好きなことでお金を稼ぎたいと思うようになる。肩肘を張っていたのが、だんだん柔らかくなったみたいだ。しかし、好きなことといっても、酒を飲むとか、クラブで馬鹿になるとか、碌でもないことが好きなことなのだ。そんなことで金なんか稼げるわけがない。 諦めかけていたところ、バーテンダーがこちらを見ているのに気づいた。 「何かお悩みでも?」 素直に言おうかどうか迷った。言ったところで、一笑に付されるのが関の山だ。しかし、言わないのも気持ちが悪い。ノイシーは、一時の恥を選んだ。 「あの……私、お仕事を探してて……それで、好きなことをお仕事にしたいな、って思ってるんですけど……今のご時世厳しいですかね……」 「そんなことは無いと思いますよ。好きなことで生きていける。素敵なことじゃないですか。それを追い求める人生というのも、なかなか良いものですよ。」 良いことを言ってくれる。とても耳触りが良い。 (この人は、とても良い人なんだな。) まるで母親かのように諭してくれる。この人の元で働いている人は幸せだろう。 ここでノイシーは少し、というか、だいぶ危ない悪巧みを考えついた。 「私、お酒を飲むのが好きなんですよね。」 「良いことです。それなら、ソムリエになるというのも__」 「だから、私、バーで働いてみたいんです!」 「……それなら、カクテルの種類も覚えるという努力も必要ですけ__」 「私、ここで働きたいです!」 バーテンダーの優しそうな目が点になっている。いますぐ写真に収めたいほど傑作だ。ノイシーは少しの笑いを堪えている。 気がつけば、店中の目線がこちらに向かっている。テーブル掃除をしていたショートのブロンドも、カクテルを運んでいる短髪も、ほろよい加減の客も、みんなこっちを見ている。 (あ、ヤバっ) 「……っていうじょうだ__」 「良いわ。明日面接しましょう。」 「えっ」 客の方から、「おー、姉ちゃんがんばれよ」という声が聞こえた。 この方向は頭の片隅にあったが、まさか実現するとは思わなかった。現在、ノイシーは混乱している。 (確かにやりたいとは言ったけど……!まさか良いって言ってくれるなんて……!落ち着け……落ち着くんだ自分……!)
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