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ノイシーが動揺しているのを見たバーテンダーは、特に口調を強める訳ではなく、ゆっくりと話しかけた。
「とりあえず、今日はこのくらいにしておきましょうか。もうすっかり暗くなってしまいましたし。早めに帰らないと危ないですから。」
「えっ……あっ……はい……えっと、カードでお願いします……」
支払いを済ませた。ようやく状況が飲み込めた。
(あ、明日面接してくれるんだ。じゃあ、それをチャンスにしようかな。バーで働くのもおしゃれだし。)
呑気なことを考えていても、外を見ると真っ暗だ。かろうじて街灯の灯りは付いているが、それでも薄暗い。
(家まではあまり遠くないはず……大丈夫……だよね……?)
少々不安になりながら、「ヘヴィリリー」を出る。家を出た頃は暖かったが、今は少し肌寒い。それもあって、ノイシーの脳は暗い色に染められる。
落ち着いて道を確認し、自分の知ってる道に出ようとする。手探りの作業だ。こういうのは明るいうちにやっておけばよかった、と後悔した。
やっと知ってる道に出た。安心して家に帰れる。そう思ったが、右手に強い衝撃を受けた。バッグを狙ったひったくりか。そう確認する暇もなく、バッグはノイシーの右手からすり抜ける。
ひったくりならどれほど良かっただろう。バッグはノイシーより離れた所に確認できる。次の刹那に、強い力で壁に向かって押し付けられる。
相手は男だ。バッグは向こう。ノイシーは女性。人通りは少ない。誰が確認しても、これはレイプである。今、ノイシーを襲った男は、レイプをしようとしているのだ。
身をよじって逃げようとするも、男の力が強すぎる。逆に体を痛めただけだった。身を守るナイフはバッグの中、つまり、手元にはない。
大声を出そう、そう思ったが、口が塞がれた。一気に恐怖が加速する。
男は乱暴にズボンのベルトを外そうとしている。それが、とてつもなく怖い。
やけに興奮した息遣いが耳元で暴れている。ノイシーの脳は恐怖で埋め尽くされる。
(イヤだ……!助けて……!助けて……!!!)
ベルトが外れた。すると、聞き覚えのない、吃驚とするような音が鳴り響く。ノイシーにかけられていた力が無くなった。
横目で見ると、男が倒れている。肩の辺りに血の池を作っている。そこで、音の正体を理解する。
銃声だ。弾丸が男の肩を撃ち抜いたのだ。男はその場でうずくまっている。
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