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「大丈夫?」
声の方向を見ると、「ヘヴィリリー」の従業員である、ショートのブロンドがそこに居た。左手はポッケに入れて、右手だけで銃を保持している。その銃口はずっと、男を捉え、離さない。
恐怖が続いて、精神が治まってないノイシーを見たショートブロンドは、ぶっきらぼうな口ぶりで話し始めた。
「姉さんから、あんたを無事に家まで送り届けろって言われてんだよね。……大丈夫だった?」
「あの……それ……」
震えた声と震えた指で、従業員には似つかわしくない物を確認しようとする。
「ん?あー……これ……ん、まぁ、アメリカは銃社会だし、って言っても言い訳になるな。……明日、面接に来なよ。姉さんが話すと思うから。」
面接の話はすぐに理解できたが、この話は理解するのに時間がかかった。
銃なんて、映画の世界でしか見たことが無い。銃自体は異界にもあるが、それだって規制が進んでおり、現在では有資格者でなければ銃を所有することはできないのだ。
「あんたの家の近くまで付いていくから、落ち着いて。いいな?」
話し方は姉とは大違いで、こちらは乱暴な口調だ。しかし、奥に優しさが見え隠れしている。ノイシーが勝手にそう感じているのかもしれないが。
平静を少し取り戻したので、家に向けて歩き始めた。
「あんたも運が無いね、まさかレイプ犯に会うとはね。」
「はは……私、あんまり運無いのかなぁ……」
ノイシーの声は憔悴しきっている。会話も、ほとんどオウム返しだ。
見かねたショートブロンドが、ぽつりと話し始める。
「私、サラって言うんだよね。あだ名だけど。」
「そ……そうなんだ……」
「…………あんたの名前は?」
「え、あ、ノイシー、ノイシー・ミラットって言います。」
「ふぅん。良い名前じゃん。大切にしなよ。」
いつでも会話が途切れそうな話題だが、今のノイシーには安心できるものだった。
それと、さっきから気になっている事がある。それをこの場で言っても良いだろうか。ノイシーは遠慮がちにサラに尋ねた。
「あの、サラさんとお姉さんの目って、自然の人間の目じゃないですよね。カラコンとか入れてるんですか?」
「…………」
サラは黙り込んだ。
(失礼だったかな……失敗した……)
謝罪の旨を伝えようとするノイシーより先に、サラが口を開く。
「私と姉さんは、異界で生まれた悪魔なんだよね。だから人間の目じゃないわけ。」
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