1章 冷たい百合

5/11
前へ
/52ページ
次へ
「大丈夫?」 声の方向を見ると、「ヘヴィリリー」の従業員である、ショートのブロンドがそこに居た。左手はポッケに入れて、右手だけで銃を保持している。その銃口はずっと、男を捉え、離さない。 恐怖が続いて、精神が治まってないノイシーを見たショートブロンドは、ぶっきらぼうな口ぶりで話し始めた。 「姉さんから、あんたを無事に家まで送り届けろって言われてんだよね。……大丈夫だった?」 「あの……それ……」 震えた声と震えた指で、従業員には似つかわしくない物を確認しようとする。 「ん?あー……これ……ん、まぁ、アメリカは銃社会だし、って言っても言い訳になるな。……明日、面接に来なよ。姉さんが話すと思うから。」 面接の話はすぐに理解できたが、この話は理解するのに時間がかかった。 銃なんて、映画の世界でしか見たことが無い。銃自体は異界にもあるが、それだって規制が進んでおり、現在では有資格者でなければ銃を所有することはできないのだ。 「あんたの家の近くまで付いていくから、落ち着いて。いいな?」 話し方は姉とは大違いで、こちらは乱暴な口調だ。しかし、奥に優しさが見え隠れしている。ノイシーが勝手にそう感じているのかもしれないが。 平静を少し取り戻したので、家に向けて歩き始めた。 「あんたも運が無いね、まさかレイプ犯に会うとはね。」 「はは……私、あんまり運無いのかなぁ……」 ノイシーの声は憔悴しきっている。会話も、ほとんどオウム返しだ。 見かねたショートブロンドが、ぽつりと話し始める。 「私、サラって言うんだよね。あだ名だけど。」 「そ……そうなんだ……」 「…………あんたの名前は?」 「え、あ、ノイシー、ノイシー・ミラットって言います。」 「ふぅん。良い名前じゃん。大切にしなよ。」 いつでも会話が途切れそうな話題だが、今のノイシーには安心できるものだった。 それと、さっきから気になっている事がある。それをこの場で言っても良いだろうか。ノイシーは遠慮がちにサラに尋ねた。 「あの、サラさんとお姉さんの目って、自然の人間の目じゃないですよね。カラコンとか入れてるんですか?」 「…………」 サラは黙り込んだ。 (失礼だったかな……失敗した……) 謝罪の旨を伝えようとするノイシーより先に、サラが口を開く。 「私と姉さんは、異界で生まれた悪魔なんだよね。だから人間の目じゃないわけ。」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加