海辺にて

2/2
前へ
/2ページ
次へ
誕生日のプレゼントが入ってる箱をあけるとカラッポ! と見せかけ、底をはがすとそこにプレゼントを仕込んでいたり、デートの待ち合わせの場所に変装で現れ、素知らぬ顔で彼女の脇に立っていたりと彼氏は素っ頓狂なことが好きな、憎めない男だった。 だが、そんな彼も一年前、目の前に広がる海でサーフィンをやっている最中、波にのまれ行方不明となってしまった。 彼女は海辺にしゃがみ込み、数本の線香を立てると両手を合わせ、目を閉じた。 「あなたを失って立ち直れそうもなかった私を支えてくれた人と今度結婚するの、あなたの知ってる人よ」 そうつぶやき、彼の友人の名を言った。 暫くして目を開けた彼女は辺りを見回して戸惑った。 快晴だった空が曇天と化し、ウミネコが辺りを飛び回っては鳴き叫ぶ異様な気配に変貌していたからだ。 海の向こうから、何かが波を立てゆっくりこちらに向かってくる。 彼女は両手を握り締めたまま動けない。 そして波打ち際まで来た“何か”がゆっくりと立ち上がった 彼女が口に両手を当て、悲鳴をあげた。 ブヨブヨの白くふやけた肉が所々くっ付いている状態の骸骨、行方不明となった彼なのだと彼女は直感でわかった。 白く濁った目玉がぎょろりと彼女を見据え、骨だけのアゴがカパッと開いた。 それは笑っているように見えた。 恐怖に包まれた彼女は逃げようと後ろを振り向く、だが瞬間移動したよう彼が目の前に立っていた。 言葉を失い、そこにへたり込む彼女を彼は見下ろした。 彼女は目を閉じ、両手で顔を覆って叫んだ 「ごめんなさい! あなたを置いて私だけ幸せになろうとして……ごめんなさい、ゆ、許して」 暫しの静寂、彼女がゆっくり顔をあげると、彼が生前の姿で立っていた。 そしてニヤリといたずらっぽい笑いを浮かべ、グッドラック! のように右手の親指を立てると、そのまま煙のように消えてた。 どこまでも素っ頓狂な真似をして驚かせるのが好きな彼らしい別れに、彼女は膝を抱え暫く泣いた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加