16.シミュレーション・キャンプ

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16.シミュレーション・キャンプ

 火星居留地マーズ・フロンティアから十人がオリンポスに送り込まれるというニュースがリリースされたのは、中国が六基目の「火星」を打ち上げた翌日のことだった。  中国の計画と同様、マースフロンティアのある種荒唐無稽な移動作戦は世界中に衝撃をもたらした。ウオール街やロンドン、東京、上海、シンガポールなどの主要株式市場は、宇宙関連の銘柄が軒並み暴騰した。テレビやネットニュースは、計画内容やメンバーのプロフィールなどを詳しく伝えた。もちろんUNNはケイの送った現地映像をふんだんに使って、内容で他局を圧倒した。  このニュースにまず反応したのは、政界と軍だった。アメリカの上、下院では、近年守勢に回っていた宇宙関係のロビイストが息を吹き返し、二年後の飛行適期に向けて、エンタープライズの増派をはじめ、あらゆる関連予算の増額に向けて活発に動き出した。現在、二機体制で運航しているマーズ・エンタープライズは、三機目の建造に着手はしているものの、二年後までに完成するかどうかは、予算的に微妙な情勢だった。与党の一部勢力は、その予算を災害復旧や社会保障に回せと主張していた。だが、風向きは一気に変わった。アメリカをはじめ、欧州や日本でも、三機目の建造に向けた予算増額が真剣に検討され始めた。退役がささやかれていたマーズ・フェニックスは三機とも二年後の飛行に向けてオーバーホールに入ることで、火星開発機構に参加している各国が合意した。
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