16.シミュレーション・キャンプ

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 頑丈な割に運動性は良い。肘や膝などの関節部分は、蛇腹構造になっていて、ストレスなく曲げられる。そのまま、アメリカン・フットボールやアイスホッケーの試合ができそうだ。赤い表土に覆われた火星の野外活動でも目立つよう、色はターコイズ・ブルーが基調で、ケイは左肩の辺りに「UNN」のロゴを貼り付けた。  火星の赤道付近にいるとはいえ、外気は昼間でも氷点下二十度近い。外皮の下には、体温維持のためのインナー、体から発する熱や水分を処理する生命維持装置、通信機器がたくさん詰まっている。数多くの配線や細管で結ばれたバッテリーと小型燃料電池は、小さなバックパックに収納されている。こちらも著しく軽量化されていて、低重力の火星だと、ピクニックに行く時のリュックサックほどにも重さを感じない。このバッテリーをフル充電すると、五、六時間は連続して野外活動ができる。  四人は以前と同じように一時間ほどかけて、空港と呼ばれている発射場に着いた。ケイは前よりは疲れなかった気がした。一度経験していたので、歩き方のコツがつかめ、道程のペース配分がうまくいったようだ。 「地球に帰る時は、こいつで火星軌道に上がって、エンタープライズやフェニックスとランデブーする。軌道に乗るためのエレベーターみたいなものだから、居住性は無視。燃料を節約するために、できるだけ小さくしてある。だが、心配しなくていい。オリンポスまでの飛行時間はせいぜい七、八時間だ。中は狭いが、どうせその間は、椅子に座っているだけだ。地表を三週間も走っていくことを考えたら、我慢できるさ」 「俺もこいつに乗ってひとっ飛びしたいよ。三週間のキャンプ生活はキツいからな」  クリフォードがこぼした。
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