16.シミュレーション・キャンプ

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「ビークルはリムジンじゃない。乗り心地はスクラップ寸前の車みたいだ。走り方がまた独特だ。火星は重力が少ないから、ぴょんぴょん跳ぶように走る。だから、ほとんどの奴は最初の数日、船酔いみたいになる。それが収まるころには、体中の関節や筋肉が悲鳴を上げ始めるんだ。特に、やられるのは首さ。長時間シートに縛り付けられて、上下左右に揺さぶられているからな。風呂にも入れないし、最悪の移動だよ」 「クリフォードは何回くらいキャンプを経験したんだい」  クリフ・リチャーズが質問した。 「最初は、火星に到着して二週間後、エリシウム山の北側まで往復二十日間の探査に出たよ。その時は、もの珍しさに興奮していたので、しんどさは余り感じなかった。エリシウム山にたどり着いた時は、本当に感動した。標高が一万メートルもあるんだぜ。平均直径が地球の半分しかない星に、十キロの高さの山が聳え立っているんだ。想像もつかないだろう。余りに大きすぎて山という感じがしない。山頂が地平線の向こうにあるんだ。視界全体、地平線全体が山なんだよ。その山を回りこんだ北側には、溶岩や水で削り取られた複雑な地形が入り組んでいて、壮大な光景が広がっていた。グランドキャニオンやギアナ高地は目じゃないね」 「オリンポスはエリシウムの二・七倍か」
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