17.訓練開始

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17.訓練開始

 四人は、マーズ・フェニックス用の帰還船カールの足元に立っていた。  カール全体は、着陸用の足も含めると高さ二十㍍、直径五㍍の円筒型をしている。船は二段式で、上部はフェニックスとドッキングして、地球に戻り、大気圏突入のカプセルとなる。天井部分には大気圏突入時に乗員を熱から守るための強化セラミクス製の「傘」がついている。一方、帰還船の下部からは、ラッパ型をしたロケットノズルが四本、無骨に突き出ていた。推進ロケットの部分は目的の軌道に入る直前に切り離す。 「遠くから見たら貧弱に見えたが、近づくとごついな。これなら四人は乗れそうだ」  帰還船を一心に撮影しているケイの横で、クリフが船を見上げながら言った。 「それにしても、これだけのモノを打ち上げるにしては推進ロケットが小さいんじゃないか」  ケイのつぶやきを耳にしたマディソンが微笑みながら答えた。 「地球と比べたら、だろ。ここは重力が地球の三分の一しかない。地球と同じロケットに乗せたら、軌道を突き抜けて、宇宙の彼方に一直線ですっ飛んで行ってしまうぞ」  帰還船から五十メートルほど離れた機械棟では、液化エチレンが自動生成されている。エチレンの沸点は、メタンより高いので、液化した状態で保存しやすい。これを液体酸素などと反応させて上昇の推進剤にするのだ。  火星開拓初期の帰還船は、生成した液化エチレンや酸素を、超低温状態のまま船内タンクで貯蔵していたが、マーズ・フェニックスの時代になってから、推進剤は船外のタンクに貯蔵し、飛行の数日前に船内タンクに充填する方式に変えた。この地点は赤道近くで、火星の中では暖かい方だが、それでも冬の時期は氷点下五十度を超す。超低温の物質を船内タンクに貯蔵しておくと、細かい配管が傷つくなどトラブルが続出したため、このシステムを採用したのだ。
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