42人が本棚に入れています
本棚に追加
「燃料は充分にある。いつでも飛び立てるぞ」
マディソンは快活だった。はしゃいでいると言っても良いくらいだ。宇宙船を目の前にして、精神が高揚しているのだろう。オリンポス行きを心から楽しみにしている様子だ。
「さあ、それじゃ早速、家に入るとするか…」
マディソンは与圧服の手元にあるスイッチを操作したあと、ヘルメット内に装着されているマイクに向かって、「開け、ごま」と言った。
「冗談だろ」
クリフのつぶやきが聞こえたが、その声を合図に、離昇機側面のドアが遙か頭上で開いた。扉までは地表から四メートルほどの高さがあった。ちょうど二階建ての家の二階の窓くらいの高さに、その扉はあった。
「なかなか洒落た合言葉だろ。これは私かユージンの音声でしか反応しない仕組みになっている。誰かに勝手に飛ばされないようにな」
「ブレ博士も同じ合言葉を言うのかな。ちょっと想像がつかない」
「それは内緒だ」
マディソンは笑った。
ドアが開き切ると、中から少し大き目の梯子がちょこっと顔を出した。はしごの先端からは地表に届くくらいの紐がぶら下がっている。クリフォードが紐をたぐると、中から折り畳み式の梯子が顔を見せた。
「原始的だろ。先端技術がぎっしりと詰まった宇宙船に乗り込むために、紐で梯子を引きずり出すんだぜ」
クリフォードは巧みに紐を操って、梯子をスライドしている。宇宙服でも登り降りできるように、幅が普通より広めになっていた。
「でも、これを自動にしなかったおかげで、火星の石ころのおみやげを何百個も積み込めるくらい船が軽くなった」
梯子はほぼ四五度の角度で着地した。かなりの急傾斜だ。
最初のコメントを投稿しよう!