17.訓練開始

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 扉を閉めたあと、帰還船内には、コロニーのハブと同じく酸素とヘリウムなどの混合空気が送り込まれてきた。ゆっくりと1気圧近くまで加圧し、さらに時間をかけて気圧に順応した後、四人はやっと与圧服を脱ぐことができた。 「向こうに着いたら、この帰還船はハブの一つになる。居住性は悪いが、最も頑丈なハブになるはずだ」  与圧服のバックパックを外しながら、マディソンが言った。 「次のエンタープライズがハブを運んでくるまで、一つのハブに四人ずつ、そしてこの帰還船に二人が住む。通信設備をそのまま衛星向けのアップリンクに使えるので、この船にはジェフが住むのが適当だと考えているのだが」  本来なら、マディソンが指令室として帰還船を使うのが妥当な選択だ。しかし、それをケイに譲ったのは、通信設備などを優先的に使わせると約束したブレ博士の意向が裏にあるのは間違いない。マディソンに言われて、ケイは改めて帰還船内部を見回した。居住性はお世辞にもいいとは言えない。四人が座るシートが並ぶと、その間を歩くのにも難渋するほどの狭さだ。オリンポスに着いた後、この椅子を取り外したとしても、二人が横になって寝るスペースを取るので精一杯だろう。少し気分が滅入った。 「椅子を撤去したら、簡易スタジオが何とか作れそうです。とても助かります」  ケイは不満を胸の奥にしまい込んだ。贅沢を言ったら、ブレ博士の顔に泥を塗ってしまう。それに、これでも四人部屋のハブ組よりはマシかもしれない。 「果たしてそうかな。不要な機器や資材を撤去して、生活できるようにリフォームするのはなかなか大変な作業だ。みんな忙しいから、誰も手伝ってくれないぞ」 「火星で初めての放送スタジオにきちんと改造しますよ。ここから地球にオリンポスのレポートを毎日送るんですから」 「寝室付きスタジオか。それも面白いかもしれない。だが、同居するもう一人がそれを許してくれるかな」 「スタジオと言っても、放送用の機材とデスクを置くだけです。ところで、僕と同居する相手はもう決まっているんですか」  ケイの質問に、マディソンとクリフォードは目を合わせて、含み笑いをした。 「ジェニファー・ハイドだよ」
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