17.訓練開始

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「特殊なマシンだが、思ったより単純だ。扱えないことはないな」  エンジニアのクリフは、この種の機械に余り抵抗感がないようだ。 「緊急事態には、船長をお願いしますよ、クリフ」  ケイはクリフの肩を叩いた。 「そうならないことを祈るのみだね」  クリフは誘導システムのチェックリストに目を通しながら答えた。ケイは軌道計算コンピューターで、簡単な軌道変更の試算に挑戦していた。大学で数学をもっときちんと勉強しておけば良かったと思っていた。  ケイとクリフは、役割を交代しながら、発射から軌道投入、大気圏再突入、着陸に至るシミュレーションを何度も実施した。最初はコンピューターを使って自動操縦で着陸してみた。これは全く問題なかった。着陸地点は予定と百メートルの狂いもなかった。  トラブルが続出したのは、コンピューターの故障を想定した手動着陸シミュレーションだ。一回目は、着陸地点が星の反対側、マリネリス渓谷の真ん中にずれた。ケイの軌道計算の入力が小数点三桁目で間違っていたのが原因だった。  二回目はクリフが操縦をミスして、大気圏再突入の進入角度がわずかに深くなった。結果、船は地表に到達する前に燃え尽きた。三回目は逆に角度が浅すぎて、船が大気に跳ね飛ばされ、太陽を半永久的に回る小さな飛行物体になった。  約五時間後、四度目のチャレンジで、やっとオリンポスの麓に着陸できた時には、ケイたち二人は口をきくのも面倒なほどに疲れ果てていた。予定地からは十キロほど南にズレたが、ともかく何とかタッチダウンできたことでもよしとしなければならなかった。 「十キロ歩くのは骨だが、燃え尽きなくなっただけマシだ。ご苦労。今日はこのくらいにしておこうか。四度目で着陸できたとは、なかなかの成績だ」  マディソンが緑のランプの多く灯った計器パネルを見つめながら言った。
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