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「二枚目の扉を開ける時、外側のシールがきちんと閉まってしなかったら、あっという間にテントの中の空気が吐き出され、吹っ飛ばされるぞ。簡単な作業に見えるが、与圧服のゴツゴツしたグローブだと、シールの開け閉めは意外に難しい」
その様子をじっと見ていたケイとクリフに、クリフォードが解説した。
「実は一度、この簡易エアロックでテントを爆発させてしまったことがあるんだ」
ケイたち二人は振り返って、クリフォードを見た。
「こういう作業は単純だから、慣れてきた頃が一番危ない。俺の場合は、二度目の長期遠征の時、最後の夜のキャンプにやっちまった。テントへの入室は、もう三十回も四十回もやっていたのにな。キャンプの最終日だったから、気が緩んでいたんだろう。テント側の扉を開けた瞬間に、俺は中から吐き出される空気の圧力で十メートルも吹っ飛ばされた。もちろんテントはぺちゃんこだ。中にいた二人は、罠につかまった動物みたいに、しばらく身動きが取れなかった。食堂使用権を二、三回譲って勘弁してもらったよ」
「そいつは勘弁してほしいな。出発までに、使用権があと一回しか残ってないんだ」
クリフが笑った。クリフォードも微かに笑ったのが、ヘルメットのシールドごしに分かった。どうやら緊張をほぐすために、自分の失敗談を打ち明けてくれたようだ。話しぶりは豪放磊落だが、細かな気配りをしてくれる男だ。
「ほら、入ったみたいだぞ。次は誰が行く?」
クリフォードが指差したミニエアロックにマディソンの姿はなかった。
「さあ、次は誰だ? 慎重に入れよ。テントに閉じこめられるのは勘弁してくれよ」
簡易ハブの中からマディソンが無線で話しかけてきた。
「じゃあ、行くよ」
ケイが一歩前に進み出た。
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