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「さすがに旅慣れているね」
ケイは感心した。酸素マスクをしながら、与圧服を一枚ずつ脱いでいくのは、なかなか骨が折れるのだ。
「そりゃ、この作業を何百回となくやったからな。最初は面倒だと思ったけど、慣れれば、ちょっとした着替え程度にしか感じないよ」
「アイスホッケーの防具をつけたり、脱いだりするのと同じかもしれないな」
「あれも随分面倒なんだろう」
「身に着けるプロテクターの数が多いからね。最初は全部身に着けるのに、十分や十五分はかかるかもしれない。でも、慣れたら五分とかからずリンクに出られるようになる」
「これも同じさ。何回もやっているうちに、順番や微妙な力加減を体が覚えるんだ」
ケイとクリフの二人が何とかくつろげる態勢になったのは、クリフォードが着替え終えてから十分ほど後だった。やっとTシャツ姿になったケイは、マスクの中で小さく深呼吸した。上半身がじっとりと汗ばんでいるのを感じた。
室温は膨らませてから時間がたっていないので、まだ十度もないはずだ。それでも、汗をかくとは、変に緊張していたようだ。ハブの床部分には電熱線が入っているので、尻の辺りがポカポカしてきた。
テントの中は、もちろん何もないが、四人はそれぞれ、床に寝そべり、手足を伸ばしてリラックスした。窮屈な与圧服を脱いだ解放感も手伝い、ケイは思わずマスクをしていることを忘れそうになった。
「今日はかなりハードな一日だっただろう」
マディソンがバックパックを開けて、中から歯磨き粉が入っているようなラミネートチューブを取り出した。
「そろそろ飯にしよう」
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