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「これだよ、これ」
クリフォードがしかめっ面をして、少し大げさに叫んだ。
「野外活動で何が不満かと言って、飯の味気なさが最悪さ。栄養は十分かもしれないが、大の大人が身を寄せ合ってチューブを必死で吸っている姿は、彼女には見せたくないよな」
それを聞いたマディソンは軽く笑いながら、そのチューブを一つクリフォードに放り投げた。
「最初の頃に比べたら、味も随分と良くなったじゃないか」
「何と言っても、マディソン夫人の苦心作ですからね」
クリフォードはすぐにチューブの赤いキャップを開け、酸素マスクを外して一口吸った。
「この携帯食は火星で作ったんですか」
ケイが訊いた。
「そうだ。火星で作れれば、それだけ地球から別の荷物を持って来られる。もちろんチューブは再利用する。中身のレシピは、このコロニーでは、ディアナが考えることになっているんだ」
マディソンは答えながら、もう一つのチューブをケイに投げて寄越した。早速、中身を味わってみた。
「甘い」
ケイは思わずもらし、眉間にしわを寄せた。
「赤のキャップは、カロリー摂取用だ。この一本で千五百㌔カロリーある。熱量を一気に確保するには糖分が最適だ」
「でも、どこかで食べたことがあるような気が…」
「子供のころ、チョコレートが詰まったチューブをくわえたことがあるだろう。味はあれに似せているようだ」
「確かに、何だか懐かしい感じがする」
「うーん、でも酒飲みには、いささか辛い味だな。口の中が何だかネバネバするぞ」
横でクリフがうなっていた。それを聞いたクリフォードが笑った。
「もう一つは、少しマシだぞ」
もう一つの青いキャップのチューブは、糖分や炭水化物ではなく、無機質やビタミン類を補う目的のものだ。赤いキャップのチューブは一日に最低二本の摂取が必要だが、青いキャップは一日一本でいい。
「うん、これなら何とか…。イチゴ味だな」
クリフが口をもぐもぐさせながら、味を確かめた。
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