2.ユージン・ブレ博士

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「ただ、今の植物工場だけでは、人が生きるのに充分ではありません。炭水化物や植物性たんぱく質を含む作物、例えば小麦やコメ、ジャガイモ、トウモロコシ、豆類などを大量に生産することができないからです。我々は、次に建設する『第二農場』プロジェクトがこの問題の解決につながることを期待しています。そのプロジェクトの主題は、土を作ることです。植物の生長には数多くの微生物、細菌の助けが必要です。残念ながら、この星の表土にはそれらが全くいません。  『第二農場』は、溶液栽培ではなく、土による農業を行う火星で最初の実験場となります。数カ月後に地球を発進するエンタープライズは、植物の生育に必要と思われる数千種類の微生物を地球から運んでくれます。地球の土壌には何百万、何千万種類の細菌がいますので、これでもまだまだ数は少なく、その相互作用を地球のように再現するのは、神の領域に近いとさえ思えますが、この星で小麦や米、豆などを収穫したければ、やるしかありません。しばらくの間、収穫量は地球の何十分の一でしょう。育たない作物があるかもしれません。ですが、土作りの努力と品種改良、遺伝子組み換え技術を駆使すれば、いずれ火星に適した作物が見つかるはずです。土から植物を育てられるようになれば、次には家畜を飼うことにも挑戦できるでしょう。三つ目のドームは牧場になるかもしれませんね」 「そうなったら、まさに開拓時代ですね」
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