19.ジェニファー・ハイド

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 熱いコーヒーをじっくり味わったあと、ケイはコンピューターを呼び出し、キャンプ中に撮影した映像素材の整理を始めた。取材したら、すぐに映像を処理して原稿を書くというのは記者の基本だ。しかも、今回は放送時間が六時間後に迫っている。オリンポス計画を発表した後、深夜の特集だけでなく、ストレートニュースも求められるようになった。多い日は一日に三本のレポートを送ったこともある。  キャンプの間は、手持ちの高解像度カメラはもちろん、手が使えない時には、ヘルメットに付けたCCDカメラでも撮影を続けた。映像を記録したHDDの撮影時間カウンターは、二台合わせて十二時間三十七分もあった。  ケイは、今日のレポートで使う分と、後日の資料用に分けて編集しながら、映像ファイルをホストのコンピューターに転送した。コロニーに戻る行程の映像は、砂嵐のせいで画面全体が赤茶けていて、ほとんど使える場面はなかったが、それ以外は新鮮で興味深い映像ばかりだった。絵面を確認しながらの作業だったので、編集には四時間以上かかった。放送開始まで、あと二時間しか残ってなかった。  ケイは編集作業を終えたレポート用の映像ファイルを、すぐに地球に向けて送信した。送り終えたことを確認したあと、すぐにカメラや三脚、送信機などの入ったケースを抱えて、公会堂に向かった。  夕方のこの時間、いつもなら公会堂には何人もがたむろし、談笑が途絶えることはないが、この日に限っては、収録のために公会堂の占有を事前に申し込んでおいたので、ドアを開けると中には誰もいなかった。ケイはいつもの場所、背景にコロニー住人のスナップ写真が貼ったボードが映り込む角度にテーブルと椅子を用意し、その正面に三脚を立て、カメラを据え付けた。カメラのスイッチを入れたあと、すぐに送信機と接続し、地球に向けて回線を開いた。
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