19.ジェニファー・ハイド

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「やあ、デイブ。無事キャンプから帰ってきたよ。レポート用の映像はさっき送っておいた。全部で十八分三十秒ある。ちゃんと届いたら返事くれよ」  ケイはカメラに向かって、こう語りかけたあと、床にあぐらをかいて座り込んだ。返事が戻ってくるまでに三十分以上かかる。  ケイはコンピューターを取り出し、放送のコメントをチェックし始めた。ここでニュース用のコメントを録画するのだ。中身の濃い三日間のキャンプを、わずか五、六分のレポートにまとめるのは、簡単ではない。ジェフは集中して原稿を推敲した。  五分ほど経っただろうか、公会堂の扉が開き、一人の女性が入ってきた。液晶画面をにらみながら、レポートの原稿を読み上げていた俺は、一瞬驚いて顔を上げた。女性は身長百七十センチほどで、白いTシャツにタオル地の黒いショートパンツを身に付けていた。ショートヘアーの黒髪は、少年のように短い。これからスポーツジムにでも行くように見えた。 「ジェニファーじゃないか。これから放送なんだ。悪いが公会堂は占有させてもらっているよ」 「知っているわよ。外に予定が貼ってあるもの」  ジェニファーはそっけなく言い、ドアの方を親指で示した。 「オリンポスでの同居人の仕事ぶりをちょっと拝見させていただこうかと思って」  ジェニファーはいたずらっぽい表情で少し笑った。ケイはジェニファーに歩み寄り、握手をした。ジェニファーも握り返してきた。小さな手だが、なかなか握力が強い。 「オリンポスでは、帰還船が僕ら二人のハブになるらしいよ」 「そうみたいね」 「改めてお願いしようとは思っていたけど、実はその中に、こんな感じの放送スタジオを作らせてもらいたいんだ。スタジオと言っても簡単なものだけど、機材やセットを常設するスペースが欲しいんだよ。狭い船内で毎回放送の準備をするのは面倒なんでね」  エメラルドを思わせる青い瞳で、ジェニファーはケイの視線を真っ直ぐに受け止めた。 「いいわよ、全然。向こうに着いたら、どうせほとんどハブにはいないから」  拍子抜けするほど彼女は、あっけなく言い、三脚に載ったカメラや送出装置などの放送機材を興味深そうに見回り始めた。
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