19.ジェニファー・ハイド

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「ほとんどいないって…。どういうこと」 「私の仕事は地質学と鉱物学よ。ハブの中にいたら、仕事にならないでしょう。外に出て、土を掘って、岩を叩いたり、削ったりして…。それで必要な鉱物を探すの。特に今回の任務は、中国との競争だから、ハブでのんびりしているような悠長な時間はないと思うわ」 「じゃあ、一人でキャンプするのかい」 「そうなるわね。少なくとも着陸予定地点の半径五十キロ以内は、完璧に調べなくちゃ。事前に周回衛星でチェックしてあるから、闇雲に回る訳じゃないけどね。あの辺りは地形が険しいから、予想以上に時間がかかるかも…。だから、きっと向こうに着いたら、キャンプ、キャンプ、またキャンプよ。野外活動用の新しいビークルも届いているらしいし、一度のキャンプで四、五日は留守にすると思うわ。単独の野外活動は規則違反だけど、オリンポスでは人がいないんだから大目に見てもらえると思うわ」 「大変だな。キャンプがそんなに続いたらしんどくないかい」 「まあ、精神的には辛いけど、これが私の仕事だから。そう言えば、マディソンたちとキャンプしてきたんでしょう」  ジェニファーはカメラからケイに視線を移した。含み笑いをしている。 「ああ。お察しの通り、初日にはお楽しみがあったよ」 「ふふーん」  ジェニファーはこの答えを予期していたようだ。含み笑いの意味はこれだったようだ。 「本当にテントが吹き飛んだら、ものの数秒でアウトよ。あんなレンジャー訓練、何の役にも立たないわ。彼らとのキャンプの通過儀礼みたいなものね」 「確かに」  ケイは笑った。 「見事に不合格点をもらったよ。でも、余り気にする必要はなさそうだね」 「ええ、全然。テントに穴が開いて、一気に減圧したら、どんな人間でも対処不能よ。一気に吸い出されてしまうわ。でも、あのテントの外皮は、大砲を打ち込んでも破れないわ」
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