19.ジェニファー・ハイド

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「そうだよ。デイブって言う。内勤だがとても優秀だ」 「ヨーロッパは猛吹雪なのね…」  彼女は少し冴えない表情をした。 「あっちに知り合いでも」 「実家がイギリスのマンチェスターなの。十数年前から、メキシコ湾流の流量が極端に減って、異常気象の振幅が激しくなっていたから」 「イギリスは高緯度だからね。最近の気象変動の影響は特に大きい」 「もともと好天からは見離された国だけど、今の異常気象には本当に打つ手なしね。南に逃げ出せるほど国土は広くないし…。いっそのこと火星に引っ越せばいいのに」  ニュースの放送開始まで、あと一時間となった。今回は生中継ではなく、事前にレポートを送り、地球で編集することになっている。 「もっと話したいんだけど、そろそろレポートを送らなければ、デイブが胃潰瘍になってしまう」  ジェニファーはカメラの近くから離れ、「どうぞ、どうぞ。レポートの様子を横から見させてもらうから。こんな機会はめったにないわ」と言い、にこりと笑った。 「なんだかやりづらいな」  ケイはあらかじめ設置したテーブルの前に座り、手元の時計をリセットした。 「ニュースは何億人もの人が見るんでしょう? 私一人が目の前にいたって、どうってことないじゃない」 「それはその通りだけど…」  そう言いかけてケイは言葉を切った。あることがひらめいたからだ。 「ジェニファー。このレポートに出演してくれないか」 「え、私が…」  本当に驚いたらしく、青い目をまん丸に見開いた。 「今日のレポートは、オリンポスに向かう帰還船班のキャンプがテーマなんだ。帰還船班の一人、つまり君が出演してくれると、非常に助かる。二、三の簡単な質問に答えてくれればいいだけだよ」  ケイは思いつくまま勢いで言った。事前のプランには全く入っていなかったが、アドリブのインタビューも楽しそうだ。ジェニファーはほんの数秒考えた後言った。 「いいわ。ただし、出演料は高いわよ」  契約成立だ。デイブはさぞかし驚くに違いない。
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