20.予感

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「女性は私一人でしょう? いくらマディソンでもそれくらいの配慮はしてくれるわよ。オリンポス行きのメンバーを見たとき、ハブを共有するなら誰かなって考えたら、ケイだって思ったの。多分うまく行きそうだって」  ジェニファーはケイの目を見て微笑んだ。ケイは自分を見つめる青い瞳に吸い込まれそうな気持ちになった。 「でも、君は僕のことをよく知らない。何度か農場で会っただけだ」 「逆に、他のメンバーのことは知りすぎているわ。あの中の何人かは、私を誘ったことがあるし、実際に寝たことのある男もいるわ。でも、何か合わなかった。だけど、ケイとは合いそうな予感がしたの」 「ここにはいないタイプの人間だしね」 「科学者やエンジニアとばかり付き合ってきたからかもしれないわ。最初に会った時から、ケイは他の男と違った感じがした。ところで、ケイは恋人いるの?」 「いた、というべきだね。完全な過去形だよ。こっちに来る直前にフラれた」  ケイがちょっと冴えない表情をしたのだろう、ジェニファーはその一瞬を見逃さなかった。 「ははーん。さては火星行きを打ち明けて、フラれたんでしょう。『どうしてそんな所に行かなくちゃいけないの』って泣かれたのね。ケープカナベラルの見送りにも来てもらえなかったんだ、きっと」 「参ったな…」  ケイは苦笑した。 「全てお見通しだね。大当たりだよ」 「やっぱりね」  ジェニファーはこう言って、ケイの鼻の頭をピンと指で弾いた。 「私も同じ。この星に来る時、五年も付き合っていた彼と別れてきたのよ」  そう言って、ジェニファーはケイにこの日何十回目かのキスをした。
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