21.プレゼント

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 ケイはブレ一家とのディナーを、アダムにプレゼントしてもらったカメラで撮影した。カメラを回してすぐに驚いたのは、優れた操作性だった。右手で持つと、掌にピッタリと収まり、録画ボタンも丁度押しやすい位置に配置されていた。使いやすさは今使っているカメラより上かもしれない。このように細工するにはかなりの労力を要したに違いない。映像を記録するHDDの容量は十分にあり、サラのヴァイオリン演奏などを撮り続けていたら、録画時間のカウンターは一時間を超えた。  ケイは自室に戻ったあと、自分用のコンピューターを起動して、カメラの画像を転送してみた。機器との接続、コピーの速度、どれも仕上がりは完璧だった。アダムは解像度が低いと説明していたが、映像は充分にクリアで、まさにプロ仕様のレベルだ。 「驚いたな。十万㌦以上の仕事だぞ」  ケイは思わずうなった。カメラを取材機器の詰まったバッグに収納しようとしたとき、カメラの底の部分に小さな刻印がしてあるのに気付いた。恐らく手彫りだろう。文字の拙さから見て、アダムが彫ったに違いない。そこにはこう刻まれていた。 〈マーズ・プレス〉
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