2.ユージン・ブレ博士

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「まず、私の得意なスポーツ分野です。火星は地球の三分の一ほどしか重力がありません。これはある種の球技にとって、致命的な要素になります。野球ならピッチャーの投げるストレートが破格に威力を増すでしょう。普通の大人でも軽く百マイルを超えますので、バッターが打つのは非常に困難になります。しかも、もし、ジャストミートしたら、軽く場外ホームランです。球場はとてつもなく広くならざるをえません。サッカーはどうでしょうか。まず、蹴ったボールがどこまでも飛んでいくでしょう。ものすごく広いピッチが必要になりますね。さらに、低重力なので、人間は地球に比べると若干飛ぶような感じで走ることになります。地に足がつかない感じがするのは、ケイもお分かりですね。足技が生命線のサッカーでは、こうした環境が競技の成立を難しくするでしょう。ただ、リフティングは格段にやりやすいですよ。ボールがなかなか落ちてきませんから。  逆に、競技の迫力が向上するのは、バスケットボールです。人間やボールの滞空時間が長くなるからです。コロニーには昨年、バスケットボールのチームができました。農場の一角に3オン3のコートを作り、ほぼ毎日、農作業の合間に練習しています。火星では無重力空間ほどではありませんが、筋力や心肺機能を保つためのトレーニングが欠かせませんので、バスケットボールで汗を流すことも大事な仕事と言えます。ゴールリングの高さが地球のルールより三十センチ以上も高いのに、みんな軽々とダンクシュートを決めています。ボールを軽く感じるので、地球だとNBAの選手でも決められないような派手な空中プレーがどんどん飛び出します。ただ、悩みの種は、対戦相手がいないことです。NBAのチームが火星に遠征してくる日を、チーム一同、心から楽しみにしています」  ブレ博士はこう言って再び微笑んだ。
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