23.警告音

1/5

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ

23.警告音

 地上班は出発から一週間、順調に旅を続けていた。一日平均の走行距離が二百㌔を超えた日もあり、予定を三〇%も上回るハイペースで快調に飛ばしていた。  コロニー・オリンポスは、太陽系最大の火山・オリンポスの南西山麓に築かれる。建設予定地はマーズ・フロンティアのほぼ真東に位置しており、最短距離で真っ直ぐ向かいたいところだが、フロンティアの北東側にはタルタロス山脈があるため、ビークルは少しだけ南下して荒れた地形をかわしたあと、かつて海だったアマゾニス平原を東に進む。アマゾニスは現在、砂漠地帯で、起伏が少ない地形が延々千㌔以上続く。この地域では一日に二百㌔近くを走破し、一気に距離を稼ぐ計算だ。しかし、道程の三分の二を過ぎた辺りからゆるやかな上りが始まり、地形は徐々に荒れてくる。ライカス地溝帯とゴーディ丘陵の間を通って、山麓エリアに進入したあとは、段丘を駆け上がる。二百㌔ほどで標高千㍍以上を登るこの区間が、この旅最大の難所で、全体の行程のうち半分近くの時間を、この登坂に充てる計画だった。  地上班の旅が進む一方で、帰還船の打ち上げ準備も最終段階に入りつつあった。出発一週間前のこの日は、帰還船のタンクに推進剤の液化エチレンと液化酸素を注入することになっている。帰還船機長のジム・マディソンと的場誠一郎は早朝から、発射台に出向いて、燃料注入の作業に当たっていた。 「チェックのし過ぎで機械が壊れてしまうんじゃないか」と揶揄されるほど、マディソンは慎重だ。任務に関する繊細な心配りは、豪放で多少尊大な話しぶりからは想像もつかない。どちらかと言えば、的場もその性向に近い。二人が揃うと、何時間でもシステムチェックに時間を費やす。  ケイは、二人の長時間チェックに付き合うのは止めにして、農場訪問を決め込んだ。一人で行くことも考えたが、塞ぎ込んでいるポール・ブラウンを誘うことにした。ポールの部屋のチャイムを鳴らしたのは正午過ぎだったが、彼は目覚めたばかりで、誘いには億劫な反応を見せたが、「気分転換になる」と口説き、やっと折れた。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加