23.警告音

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 「一時間もしないうちに」というペドロの予想は外れた。今回の宇宙放射線は強力で、警報が解除されたのは、二時間後だった。何もすることがなく、ただじっと待つことがこんなに辛いとは。  ずっと点灯していた赤ランプが消え、隣の緑のランプが灯った瞬間、エアロックの中には言葉にならない安堵感が満ちた。エアロックの窓から覗いた農場は、二時間前と何ら変わりなかった。宇宙線の襲来があったとは思えなかった。 「ペドロでも、宇宙線には緊張するんですね」  彼は沈んだ口調で言った。 「ああ、特に今回はね。コロニーにいる我々は心配ないが、地上班が心配だ。きちんと防御策を取れたのだろうか」  ケイは頭を殴られたような気がした。この二時間余り、ビークルで移動中の六人のことなど思いもしなかった。初めてのことで、そんな精神的な余裕はなかった。自分のことで精一杯だったのだ。しかし、ペドロの言う通り、最も深刻な状況にあったのは、自分たちではなく、地上班だ。ビークルは宇宙放射線に対する有効な防御措置を持っていない。この移動期間中、ある意味で最も恐れられていたのが、宇宙放射線のバーストだったはずだ。今は平坦な砂漠地帯を走っているので、洞窟や渓谷のような自然の防護壁も恐らくないだろう。警報から宇宙放射線到着までは、せいぜい十数分だ。このわずかの時間に退避場所を見つけることができたのだろうか。  宇宙放射線被曝量を減らすのに、最も効果的な防護壁は水、正確に言うと水素原子だ。マーズ・エンタープライズでも、宇宙放射線警報がでると、太陽と自分の間に水のタンクか食糧庫を置く位置に隠れることを教えられた。だが、ビークルには限られた量の水しか積んでいない。六人を守るには余りにも少量だ。その他で役立つとすれば、バギーとキャメルに分けて積んである液化メタンのタンクだが、短い時間内に効果的な防御体勢が取れたのだろうか。  ケイは状況を確認するため、中央管制室に行くことにした。ポールは「僕は大丈夫だよ。すぐ仕事に戻って」と言った。その時の彼は、しっかりとした口調だった。
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