2.ユージン・ブレ博士

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「このほか、火星で競技性が増すと考えられるのは、バレーボールやテニス、スカッシュでしょうか。道具やコートが確保できていないので、まだ試していませんが、競技エリアがある程度狭く限定されたスポーツの方が、低重力下では有望と考えられますね。  火星で新しいスポーツも誕生しました。それは私の専門アイスホッケーに似たエア・ホッケーです。アイススケートやインラインスケートは、重力の少ない火星では機能を発揮するのが難しい。しかし、靴と床にちょっとした工夫をすることで、アイスホッケーに似たスピード感のあるグラウンド・ホッケーができることに気付いたのです。パックの代わりに、ゴムのボールを使います。地をはうだけでなく、空中をボールが飛び交い、スリリングなプレーが生まれます。  今年、私と数人の愛好者でMHL、マーズ・ホッケー・リーグを発足させました。いずれ、このスポーツを火星で最もポピュラーな競技にすることが、今の私の最大の夢です。ケイもぜひMHLのプレーヤーになって下さい」  アイスホッケーのことを持ち出されて、ケイは仕事中ということを忘れて冷静さを失った。 「私の生まれはカナダです。大学を卒業するまで、アイスホッケーのプレーヤーでした。ブレ博士、あなたの現役時代のプレーは何度もテレビで見ました。百マイルオーバーのバッティングシュートは本当に素晴らしかった」  ブレ博士はますます瞳を輝かせ、こう言った。 「ここでバッティングシュートは打たない方がいいですよ。時速百三十マイル以上のスピードで、隔壁をぶち破ってしまいます。コロニーの責任者として、それだけは認められません。時々、思い切りシュートを打ってみたい気持ちになることはありますがね…」  このインタビューを経て、ケイはブレ博士への興味が湧くのを抑えきれなかった。
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