24.放射線事故

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 マディソンとの交信を終え、ブレ博士は無線周波数を切り替え、地上班のビークルを呼び出した。 「ビークル1、こちらマーズ・フロンティア、ブレだ」  ほんの数秒の間があって、すぐにピカールの声が聞こえてきた。相変わらず感度が悪い。 「ビークル1です。雑音が多いですが、何とか聞き取れます。どうそ」 「ピカール、作戦変更だ。早速だが、すぐにバギーの撤退準備に入ってくれ。クリフォードとシェーファーの二人はバギーでコロニーに帰還してもらう。残る四人はキャメルで予定通りオリンポスに向かって欲しい」 「バギーの撤退の件、了解しました。私もその方がいいと思います。クリフォードは意識こそしっかりしていますが、嘔吐が止まりません。気分がかなり悪いようです。シェーファーは今のところ体調に問題ないので、バギーの運転は可能だと思います。出発は日没後でしょうか」 「日が沈んだらすぐに、と言いたいところだが、この状況下で夜間走行は難しいだろう」 「分かりました。日没後に荷物の積み替え作業を行い、明朝、出発するようにします」  ブレ博士は、下を向いて、大きく息を吐いた。 「現在地点は」 「コロニーから七百四十三㌔の地点です」 「了解、すぐに準備を進めてくれ」  ブレ博士は無線を切ったあと、すぐに隣の二人に指示を出した。ブレ自身も手元のコンピューターを操作して、難しいそうな計算を始めた。地上班は出発から順調に飛ばし、予定より百㌔以上余計に前進していた。そのアドバンテージがこの事故で仇になってしまった。 「ケイ、使って悪いが、ドクター・フィリップスを呼んできてくれないか」  ブレ博士が壁際に立って事の成り行きを見守っていたケイに言った。マクダネル・フィリップスはこのコロニーのチーフ・ドクターだ。 「分かりました」  ケイはすぐに中央管制室を飛び出し、ドクターのハブに向かった。
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