24.放射線事故

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 ジェニファーの案は明快だった。コロニーに一台だけ残るビークル「ラボ・カー」で現地に向かい、帰還途上のバギーとランデブーし、そこでクリフォードを応急治療する。クリフォードとシェーファー、ドクターの三人は、ラボ・カーでコロニーに戻る。代わりの二人がバギーに乗り移り、再び反転してオリンポスを目指す。足の速さからみて、数日でキャメルに追いつける。これがジェニファーの出した救助案だった。 「クリフォードを救うにはその方法しかない」  ブレ博士は間髪いれずに応答した。同じ方策を考えていた話しぶりだった。 「出発するなら早い方がいいわ。急げば二日かからずにランデブーできる」  ケイはすぐさま感じた。ジェニファーはうずうずしている。自分が行く気なのだ。 「いつなら出発できる」  ブレ博士はジェニファーの性格を知り尽くしている。言い出した以上、彼女がこの任務に就くのだ。 「燃料の注入と出発準備には二、三時間あれば充分です。でも、どうせなら、メタンや酸素の予備も持っていけば、後々、役に立つんじゃないかしら。準備は日没までに整うので、夜のうちに出発します。朝まで待っていられない。でも、ドクターは大丈夫? 準備が間に合うかしら」  ジェニファーはそう言って、ドクターを見た。ドクターは真っ赤な顔をしながら、「時間はかからんよ。二時間もあればオーケーだ」と言い切り、準備のためすぐに医療室に戻った。  ケイはこの前、ジェニファーにドクターとの過去を聞いたことがあったのを思い出した。ドクターはジェニファーがこのコロニーに来た頃、熱心に口説いてきた男性の一人だった。しかし、ジェニファーが振ったのだ。それも手ひどく。彼女にしてみると、他意のない普通の行動だったのだろうが、ドクターはまだそのことを忘れていないらしい。 「ところで、ジェニファーが行くとして、パートナーは誰にする? ビークルの操縦に長けた人間がいいだろうな」  ブレ博士はもう出発を前提に話を始めた。その場にいる全員も「ジェニファー作戦」を了承した雰囲気だった。重要な事柄にもかかわらず、即断即決でどんどん物事が進んでいく。ケイはそのテンポの良さに感心した。
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