25.ラボ・カー

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 もう一つも、頭の痛い問題だった。地上を移動中、カメラなどの取材機材を充電する手段がなくなることだ。ビークルとコロニーとでは電気機器の使用電圧が異なっている。当然のことながら、ケイはバッテリー充電器を含めた取材機器の全てをコロニーの電圧仕様に設定していた。ビークルの電圧でそのまま使ったら、主要部品の電子回路はすぐに焼き切れてしまう。持って行ける充電済みバッテリーは、せいぜい一週間で底を尽く。それでは、最も絵になるはずの最後の難関部分でカメラが全く使えないことになる。それではデイブが納得するはずはない。ケイは困り果てて、ブレ博士に相談した。 「それならすぐに解決するよ。アダムのところに行ってみるといい。きっと役に立つ道具を貸してくれる」  ブレ博士はいとも簡単に答えた。  ブレ一家の居室にアダムを訪ね、充電器のことを相談すると、アダムはすぐにケイの手を引き、工房へと走った。 「ちょうどいい機械があるよ。この前、クリフォードと作ったんです」  アダムは倉庫の奥の方から、ちょうど両手に乗るくらいの立方体の箱を持ってきた。 「これです」  三十㌢四方の箱には太陽電池パネルがびっしりと張り詰められていた。 「太陽電池を使った充電器です。電池そのものは惑星間飛行用の高出力型で、カメラ用だったら、二個同時に充電できます。晴天なら半日で一本は満タンになるよ。ケイが今持っている充電器をそのままつなげるから」 「普通のとは形が多少違う感じがするね。ちょっと分厚いし、表面についているのは何?」  ケイはゴツゴツした表面をなぞった。 「これが優れものなんです。集光力を高めるためのレンズなんです。ただのレンズじゃなくて、発電に適した波長の光を電池に集めて、発電効率上げています」 「借りて行ってもいいのかな」 「うん。こんなに早く役に立つとは思わなかった。こんなことになるって分かっていたら、映像の中継器も作れたかもしれないのに、残念だな。旅の途中でレポートが送れたのに」 「今回のトラブルは想定外だからね。そっちの方は我慢するよ。それより、本当にありがとう。カメラのプレゼントと言い、本当にアダムは頼りになるね」  アダムは軽く微笑んだが、すぐに真顔に変わった。 「クリフォードの具合はどうなの」  アダムにとってクリフォードは、エンジニアの先生であり、何より兄のような存在なのだ。
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