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27.疾走
ジェニファーが徹夜で走らせたが、午前五時過ぎに東の空が白み始めるまでに、ラボ・カーはコロニーから直線距離で九十㌔ちょっとしか遠ざかることができなかった。
「さあ、あとは任せたわよ。私は少し仮眠させてもうらうわ」
日が昇り、視界に赤茶けた火星の地表が広がってきた午前五時半、ジェニファーはラボ・カーを停車させた。目は真っ赤だった。火星の弱々しい太陽でさえ、まぶしいらしく、しきりに瞬きをしている。
「了解。少し仮眠できたので、頭が少しすっきりしたよ」
ケイは操縦席に移った。シートベルトと共に気分も引き締めた。ビークルの操縦は、オリンポス行きの準備段階で教えられていた。いずれの〝授業〟でも、助手席にはクリフォード・マグガイバーが座っていた。
「オートマチック車を運転するのと同じだ。車高が高いから、見晴らしが良くて気持ちいいぞ」
初めてのビークル操縦で緊張していたケイに、マグガイバーが言ったことを思い出した。
「出発前に、コロニーに無線を入れておくよ」
ケイはインカムに向かって話し始めた。ジェニファーは助手席のシートをほぼ平らになるまで倒し、横向きになって寝る体勢に入った。
「ラボ・カーからマーズ・フロンティア・コントロール、応答願います」
答えはすぐに返ってきた。コロニーも不眠不休だ。
「ラボ・カー、どうぞ。ケイかい。調子はどうだ」
声の主は的場誠一郎だった。
「現在、コロニーから九十四㌔ポイントで停車中です。ビークルには何の問題もありません。バギーから何か連絡は入りましたか」
「クリフォードは、血圧が少し下がったが、安定している。ただ、振動がひどいので、全速で走れない。予定より相当遅れている。合流予定地点まで、あと三百㌔以上ある」
「こちらは夜間にジェニファーが頑張って走りました。こちらが余計に走って、今日の夕方までにはランデブーできるようにします」
「了解、頼むぞ」
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