27.疾走

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 ケイはハンドルに神経を集中し、アクセルを軽く踏んだ。電気モーターの回転が上がると軽い振動が伝わってきた。ギアをドライブに入れ、ハンドブレーキを解除すると、ラボ・カーは爬虫類のように、ゆっくりと動き出した。掌に汗がにじむのが分かった。ハンドルを細かく操作しながら、車の挙動を確認したあと、ケイはアクセルを強く踏み込んだ。エチレン・エンジンが咆哮を上げ、車輪が細かい砂をかき上げた。ビークルは若干、尻を振りながら、軽くダッシュした。 「なかなか手馴れた操作ね」  ジェニファーが横で微笑んだ。  ちょうど進行方向の地平線から、小さな太陽が昇ってきた。ぼんやりと黄色く、届く光に力強さはなかった。しかし、長い間、漆黒の闇の中にいたケイには、この弱々しい太陽でさえ、大きなエネルギーを与えてくれるように思えた。実際、車体全体に貼り付いている太陽電池が一斉に活動を開始した。その証拠にバッテリーの電圧計が少しずつ上昇し始めた。電気に余裕がでてきたので、エンジンをアシストする電気モーターの出力を少し上げると、逆にエンジンの回転数が下がり、キャビンの中は少しだけ静かになった。ケイは時速六十㌔に増速し、そのペースを守ることに専念した。 「ケイ、少し優しく運転してくれよ。車酔いしたようだ」  出発以降、後部座席で大人しくしていたドクター・フィリップスが声を上げた。幾分青ざめた顔つきをしている。ケイもハンドルを握るまでは、車の揺れで少し気分が悪かった。だが、不思議とハンドルを握ると酔いは収まった。 「大丈夫よ、ドクター。これからはずっと平坦な地形が続くから。タルタロス付近は結構アップダウンが激しいのよ。逆にアマゾニス平原に入ったら、山が恋しくなるわよ」  ジェニファーは、助手席で横になり、リラックスした体勢を取っていた。
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