27.疾走

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 火星の大地は、助手席に座って見ていた時とは全く違った表情を見せた。ほとんど平らに見えていた地表には、小さな起伏がたくさんあることが分かった。平均時速は六十㌔前後だが、下は砂と礫のダート路面だ。石ころを踏むと、ハンドルが小刻みに震えた。慣れていないこともあるが、ドライブに伴う緊張の度合いは、舗装路の感覚だと、百マイル(約百六十㌔)でハイウエイを走っているときと同じように感じられる。  路面がうねり、見通しのきかない場所では、緊張感がより高まった。「先に大きな岩があるかもしれない」。そう思うと、わずかな死角でも、アクセルを思わず緩めてしまう。もし、障害物に衝突、あるいは乗り上げて、ビークルを横転させようものなら、クリフォードを助けに行くどころではない。カナダの氷雪路面を走っているのに似た感覚かもしれない。 「ハンドルをそんなにきつく握り締めなくても…。リラックスして、もう少しペースを上げてもいいんじゃない」  ジェニファーが横でひと事のような口調で話し掛けてきた。運転を代わってから十五分ほど経っていた。 「ラボ・カーはホイールベースが長くて、車幅が広いのよ。めったなことがない限り横転はしないわ。それに、このキャビンの強化プラスチックは宇宙船の外窓に使えるくらい頑丈よ。戦車の大砲でも持ってこない限り、穴を空けることはできないわ」  彼女はケイの不安をきちんと見抜いていた。 「分かった。少しペースを上げてみよう。プロのラリードライバーなら、この道でも二百㌔以上で飛ばすだろう」
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