27.疾走

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 アマゾニス平原を進んでいくうち、火星の大地は完璧なまでに単調な砂漠に変貌していった。砂が深く、ハンドルをとられることも多くなった。休みなく走り続けているうちに、太陽が頭の真上まで上がった。ケイはここ数時間、自分が今どこにいるのかも忘れて、ビークルの操縦に没頭していた。スピード感覚が徐々に麻痺して、ラボ・カーは時折時速八十㌔を超えるほどにスピードアップしていた。  突然、コロニーから無線連絡が入った。助手席のジェニファーが、ヘッドセットのマイクを右手でつまみながら、応答した。 「現在、コロニーから二百四十六㌔の地点を走行中。ケイが操縦しています。ビークルは順調です」 「予定通りのペースだな、と言いたいところだが、シェーファーから連絡があって、マグガイバーの調子が良くないらしい。血圧が低下して、時折意識が混濁し始めた」  無線の声の主はブレ博士だった。 「血圧はいくつかね」  後部座席から、ドクターが話に割って入った。無線を聞いて、瞬時に覚醒したようだ。さすが医者だ。 「上が九〇、下が六〇だそうだ」 「心拍数は」 「一一〇ちょっとだ」  ドクターは軽くため息をついた。 「時間との勝負だな。まだ出血が治まっていないようだ。血圧が急激に下がれば、いつショック症状を起こすか分からん。シェーファーにはブドウ糖の輸液を始めてくれと伝えて欲しい。とりあえず、一パックをできるだけゆっくり投与してくれ」 「了解した。シェーファーにそう伝える。バギーは現在、時速五十㌔のペースで西進中。ランデブー予定ポイントまで約百三十㌔の位置だ」
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