27.疾走

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 ケイはヘッドセットで会話を聞きながら、さらにアクセルを強く踏み込んだ。スピードメーターは八十五㌔を表示した。ラボ・カーの限界に近い。道なきダート路面を走るには、無謀に近い速度かもしれなかったが、一刻も早くバギーとランデブーするために、リスクを冒さなければならない時なのだ。 「かなり危険な状態になった。ランデブーまであとどのくらいかかるかね」  ドクターが声を上げた。ジェニファーがそれに答えた。 「今、バギーとの直線距離は大体二百㌔。このままなら、夕方には合流できそうだけど、クリフォードの調子からみて、向こうのペースはこれから落ちそうね。こっちが頑張って、その分たくさん走るしかないわ」 「午後四時に合流できたとして、あと五時間か…」  ドクターはつぶやいた。 「厳しい?」 「余裕はない。救急キットの止血剤は使い果たした。一刻も早く輸血しなければ…」 「バギーなら時速百㌔ペースで走れるはずよ。その半分以下の速度ということは、ゆっくり走らざるを得ないのよ。具合は相当悪いのかもしれない」 「震動は今のクリフォードにとって致命的だ。跳んだり跳ねたりするくらいなら、止まって待っていてもらった方が助かる確率は高くなる」 「でも、あの車は跳んだり跳ねたりできるから速く走れるのよ。地面をはって進むなら、このビークルと能力はたいして変わらないわ」  焦燥感で胃の辺りが縮こまるような感じがした。ケイはアクセルをさらに深く踏み込んだ。もうペダルが床につきそうなくらいだった。
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