28.ランデブー

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28.ランデブー

「随分走ったわね」  後部座席で転寝をしていたジェニファーが目をこすっている。この日は午前と昼、午後に休憩を三回だけ取ったきりで、あとはケイが一人でラボ・カーを走らせ続けている。ジェニファーは前夜の徹夜走行がたたって、体調が優れない様子だった。穏やかな地形ということもあり、ドライブは順調だったが、早朝から走りづめなので、さすがに疲労は限界に近付いてきた。バギーが想定より進んでいなかったので、当初の予定合流地点はとっくに通り過ぎ、コロニーから四百㌔以上離れた場所まで到達したのに、まだバギーの二人とはランデブーできずにいた。 「平原の奥深くは地形が穏やかだ。最初よりは随分と走りやすくなったよ。それにしても、驚くのはビークルのタフさだよ。全くのノー・トラブルだ」 「燃料はどう?」 「電気モーターの出力を上げているから、随分節約できた。太陽電池が意外に頑張っている。フロンティア・コロニーまでは補充なしで大丈夫だ。予備タンク三本はオリンポスに持っていけるよ」 「上々ね」。ジェニファーは頷いた。 「こちらバギー、ラボ・カー聴取できますか?」  小さな太陽が地平線近くまで傾いた頃、突然無線が飛び込んできた。居眠りをしていたドクターも慌てて目を見開いた。 「こちらラボ・カー、バギー、どうぞ」  ケイはインカムに向かって答えた。 「ケイか、現在位置を知らせてほしい」  シェーファーの声は幾分しわがれていた。ケイはトリップメータに目をやった。 「四百四十二㌔地点です」 「了解。あと、五、六十㌔はありそうだな。こちらはペースが上げられない。マグガイバーの血圧がさらに低下した。上が八〇を切るようになった。ドクター、危険な状態だろうか」  ドクターは、首を小さく左右に振った。 「意識はしっかりしているか」 「話し掛けには何とか応答するが、時々意味不明のことを言ったりする」 「ブドウ糖の輸液をもう一パック点滴してくれ。血圧が六〇台にまで下がったら、強心剤が要る。容態が変わったら、また連絡してくれ」 「了解。飛ばしたいところだが、振動をできるだけ与えないように走ると、時速四十㌔がせいぜいだ。このままだと、ランデブーは…」 「二時間後ね。ケイが今のペースで飛ばせれば、だけど」  ジェニファーがつぶやいた。 「やるしかないさ。夜になる前に何とか合流する」  ケイは体の奥底に残ったわずかばかりの集中力を全力で絞り出した。
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