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先ほどのバギーとの無線連絡以降、ケイは二時間以上、最高速度に近いスピードを保ってノンストップで走った。陽は地平線の彼方に落ち、上空には例の青い夕焼けが見え始めていた。緊張を強いられてきた視神経は、半分麻痺した状態となり、前方の視界が時折ぼんやりと霞むこともあった。危険を察知する感覚も麻痺しかけていた。しかし、ケイはクリフォードとのランデブーをただ念じ続けて、半ば無意識でハンドルを操作し、ひたすらアクセルを目いっぱい踏み続けていた。
「そろそろ見えてきてもいい頃なんだけど」
助手席に戻ったジェニファーも前方を凝視していた。互いのビークルの距離は、もうわずかのはずだった。視程が十㌔ほどあるので、バギー車の巻き上げる砂塵が見えてもおかしくない頃合なのだ。
「何かトラブルでもあったのだろうか」
ここまで来たのに、クリフォードを助けられないなんてことは、あって欲しくない。
「ラボ・カーからバギー、応答願います」
ジェニファーが無線チャンネルを開いた。しばらく返答がなかった。ほんの数秒だったかもしれないが、無線の空電音に、三人は耳を研ぎ澄ました。
「こちらバギー。現在、停車中だ。クリフォードは呼吸がかなり荒い。血圧も七〇ギリギリだ。もう動かさない方がいいと判断した」
心中の動揺は相当なものだろうが、シェーファーの声は落ち着いていた。
「現在地は」
「四百八十㌔地点だ」
ケイとジェニファーは顔を見合わせた。
「あと十㌔だ」
「シェーファー、あと十分ちょっとでそちらに着ける。それまで何とか頑張ってくれ」
「分かった。クリフォードにも伝えとくよ。もう少しだってな」
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