28.ランデブー

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 バギーは赤茶けた礫の点在する古いクレーターの真ん中で、見捨てられた廃車のようにポツンと停まっていた。後方の排気管から立ち上る白い蒸気が車内で息づく生命の存在をわずかに感じさせた。日没から既に二時間ほどが経過していた。辺りは暗くなり始めている。あの救いようのない暗闇がすぐそこに迫っている。  ラボ・カーが接近していくと、キャビンの透明なシールド越しに、シェーファーが手を振っているのがはっきりと見て取れた。ラボ・カーは、速度を落としながら、バギーの横に並んで停車した。ラボ・カーは、キャビンの空気を後部荷台の簡易ハブに移し、いつでも外に出られる態勢を取っている。 「シェーファー、おまたせ。準備はいいか」  無線で話し掛けると、すぐに返答が来た。 「オーケー、すぐに来てくれ」  バギーのキャビンで、シェーファーが与圧服のグローブの親指を立てた。バギーの後方からは水蒸気が勢いよく吹き出し、白い筋となって赤い大気の中に溶け込んでいった。キャビンの減圧を始めたのだ。 「さあ、行くわよ」  バギーの減圧が終わったのを確認すると、待ちかねたジェニファーが、ラボ・カーのドアを勢いよく開けた。すぐにドクターが地面に飛び降り、隣に停車しているバギーの梯子を駆け上がり、キャビンに入った。あっという間の出来事。動きは身軽だった。シェーファーはドクターが乗り込むとすぐにドアを閉め、キャビンの再与圧と酸素導入を始めた。与圧服を脱がなければ治療はできない。  バギーの車高は地上から一㍍ほどある。ラボ・カーを降りたケイとジェニファーは時々背伸びをして運転席の様子を覗き込んだ。だが、ドクターやシェーファーのヘルメット姿の頭が時折見えるだけだった。中で何が行われているのかは、ほとんど分からなかった。 「大丈夫かな」  誰に語りかけるともなく、ケイはつぶやいた。
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