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「心配ないわ。ドクターはああ見えても、火星一の名医よ。もっとも火星に医学博士は三人しかいないけど。でも、腕は確か。彼は地球でも遺伝子治療分野で、超一流だったのよ」
ジェニファーは、ケイのグローブをぎゅっと握ってきた。
数分後、バギーのキャビンの中で、ドクターがヘルメットを取っているのが見えた。空気調整が完了したのだ。いよいよ本格的な治療開始だ。宇宙放射線の大量被曝からすでに三十時間余りが経っていた。
「ケイ、ジェニファー。君たちの血液型は何型かね」
ドクターが無線を入れてきたのは、治療が始まってから一時間後だった。ビークルの周囲は暗闇に包まれていた。二人は地面にべったりと座り込み、ビークルにもたれかかっていた。
「僕はA型。RHプラス」
「私はO型。同じくプラスよ」
「分かった。じゃあ、しばらくしたらジェニファーから、少しだけ血液をもらうよ」
「輸血ってこと?」
「そうだ。クリフォードの血液型はO、プラスだ。コロニーには適合者が四人いた。二㍑は用意してきたが、コロニーに戻るまでに、まだ必要になる」
「分かったわ。でも、私の血の気は強いわよ」
「それは充分分かっているよ。君の勝気な血が奇跡を起こしてくれるのを期待するよ」
「奇跡? クリフォードは本当に悪いのね」
ドクターは一瞬返答に詰まったが、医者らしい冷静な口調で説明し始めた。
「お世辞にも良いとは言えない。あれだけの宇宙線をまともに浴びたんだからな。白血球の数が異常に多く、血小板はほんの少ししか残っていない。だから血が止まらないんだ。急性白血病の症状だよ。消化器だけでなく、他の臓器からも出血しているようだ」
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